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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]北田暁大> 記事 書評 「家庭教育」の隘路 子育てに強迫される母親たち [著]本田由紀[掲載]2008年03月30日 ■格差を助長し、葛藤を深めていないか 「国に頼らず、家庭での教育を見直そう」というスローガンは、現代の日本に広く浸透し、子育てに携わる親たちに内面化されつつある。しかし本当に今のままの形で家庭教育を拡充していくことが、母親にとって、日本社会にとってよいことといえるのか。「子育てに強迫される母親たち」という副題を持つこの本は、子育てをめぐる「格差」と「葛藤(かっとう)」の拡大を実証的なデータに基づいて示し、家庭教育への強迫からの解放を提言する。 家庭の経済状況や母親の子育てに関する考え方や日常的な行動が、子どもたちに対する家庭教育の内実に少なからぬ差異をもたらしている。この状況において、「家庭教育の更なる拡充」を喧伝(けんでん)することは、すでに家庭教育への関与に積極的な層とそうでない層との格差拡大を助長することになるのではないか。これが「格差」の側面。 また、家庭教育の過大視は、「家庭か仕事か」という女性の悩みをいっそう先鋭化するとともに、家庭教育の内実(何が「正しい」家庭教育なのか)をめぐる苦悩を深刻なものとする。これが「葛藤」の側面である。 家庭教育の拡充というと聞こえはよいが、それは経済的・文化的な資源と関連した格差を拡大し、実質的に子育ての主体となっている母親たちの葛藤を深めていくのではないか。インタビュー調査とアンケート調査にもとづき――随所に子育てに苦闘する母親たちへの深い共感を折りはさみながら――「『家庭教育』って言うな! と言うためのちゃんとした根拠」を探究している。 家庭教育を無責任に奨励し、子育てに関(かか)わる困難・課題を母親や家庭に丸投げするのではなく、子どもの教育や社会化を「公共的に家庭外の社会で広く担うものとしてゆくこと」。それは、母親たちを無節操な自己責任言説から救出することにほかならない。子育てに悩んでいる人にも生きがいを感じている人にも(そしてもちろん、直接子育てに関わっていない人にも社会の一員として)ぜひとも読んでほしい一書である。 ◇ ほんだ・ゆき 64年生まれ。東京大学准教授。『多元化する「能力」と日本社会』など。
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