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書評

裁判員法廷 [著]芦辺拓

[掲載]2008年04月27日
[評者]唐沢俊一(作家)

■最後にあっと声をあげる仕掛けが

 裁判員制度が導入されたある日。読者である“あなた”はある事件の裁判員に任命され、法廷に座っている。あなたはあなたの責任において、あなたの目の前にいる被告が有罪か無罪か、また刑の量定までをも判断しなければならない。いま、自信満々に冒頭陳述を行っているのは、若く気の強そうな眼鏡の美人女性検事。それに対峙(たいじ)している弁護人は三十過ぎの、風采のあがらない、しかし大阪なまりもふくめてどことなくユーモラスな雰囲気の男である。名前を、森江春策と言う……。

 ここまで読んでなぁんだと思った方も多いだろうが、本書は本格ミステリー界の雄・芦辺拓による名探偵・森江春策シリーズの最新作である。過去と現在が輻輳(ふくそう)する壮大なプロットが見物だった『時の密室』や、黄金時代探偵小説への大胆なオマージュであった『グラン・ギニョール城』に比べると、近未来の現実をバーチャルにシミュレーションして、読者まで参加させる実験小説のおもむきがあるとはいえ、中編三作の連作による法廷推理という構成は、やや地味かもしれない。しかし、そこは名うてのトリック派、芦辺拓である。連作という形式や、シミュレーション小説という形式そのものを逆手にとって、最後にあっと声をあげさせる仕掛けが用意されている(その驚きを満喫するためにも冒頭の作者の指示には従っていただきたい)。

 設定が数年後の現代、登場人物にオタク好みの眼鏡女子まで登場させるというイマ風な趣向を凝らしながら、この作品が、いつもの芦辺作品と同じくノスタルジックな雰囲気横溢(おういつ)なのは、主人公をはじめとする登場人物たちが、みな正義を信じ、法を順守し、奇怪な謎の裏に隠された真実を追い求めようとする姿勢を崩さないからだろう。昨今の若手作家が、現実の引き写しのように異常者ばかりを登場させるのにいささか辟易(へきえき)していたミステリーファンとして、この古典的な装いがうれしい。

 評者はさまざまな理由から裁判員制度には反対の立場だが、この作品には絶対的に支持を表明するものである。

   ◇

 あしべ・たく 58年生まれ。作家。著書に『殺人喜劇の13人』『紅楼夢の殺人』など。

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