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書評

チックタック(上・下) [著]ディーン・クーンツ

[掲載]2008年05月04日
[評者]瀬名秀明(作家、東北大学機械系特任教授)

■どこまでも大まじめにばかばかしく

 チックタック。そしてオッド(奇妙)。近年のクーンツ作品に何度も登場するこのふたつの単語は、エンターテインメントを駆動させる力だ。

 本書は80年代にベストセラー作家へと昇格し、90年代に『心の昏(くら)き川』『インテンシティ』と立て続けに緊密な傑作サスペンスを放ったクーンツが、次の段階へ進む前にあえてB級を目指して書いたペーパーバック・オリジナル長編である。主人公トミーはハードボイルド作家としての人生を歩み始めたその夜、奇妙なぬいぐるみと遭遇する。人形は動き出し、トミーに襲いかかる。人形の内部から膨れ上がった怪物は成長し、どこまでも追ってくるのだ! パソコン画面には「デッドラインは夜明け」の文字。

 往年の名画「赤ちゃん教育」のような風変わりなロマンチック・コメディーと80年代ホラー映画を融合させたこの物語は、どこまでも大まじめにばかばかしい。ベトナム系アメリカ人という主人公の設定もいいが、ハンバーガー屋の店員なのに大金持ちでプロ顔負けの運転技術を持ち、トミーを助けるお相手女性のキャラが特にイカしている。ご都合主義満載のプロットを緩急つけた文章で最後まで捌(さば)き切る技は見事の一言。

 しかしクーンツの本が楽しいのは、ただ娯楽に徹しているからではない。人はときに過酷で理不尽な運命に直面する。逃げ出したい、時を止めたいと思っても針はチックタックと動き続け、私たちは決断し、行動しなければならない。そして私たちの人生はつねにオッド(奇妙)であるからこそ、どんな荒唐無稽(こうとうむけい)な運命がやってきてもユーモアを失ってはならない。この人生観に共鳴する人なら、クーンツの物語はいつでも同志の心強さと戦場の安らぎと笑みに満ちていると感じるだろう。

 本書の後、クーンツは文字通りオッドな人生をユーモアで語る主人公を獲得し大成功を収めた。その『オッド・トーマス』シリーズ(既刊4冊、未訳)は彼の人生観の集大成であり代表作となった。

 『チックタック』はクーンツが最後に書いた超絶ホラーだ。大いにお楽しみあれ。

     ◇

 風間賢二訳/Dean Koontz 45年生まれ。米国のベストセラー作家。

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