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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]橋爪紳也> 記事 書評 クリエイティブ資本論―新たな経済階級の台頭 [著]リチャード・フロリダ[掲載]2008年05月04日 ■創造力を持つ「階級」が都市を動かす 「クリエイティブ・クラス」と呼ぶべき階層が世界規模で台頭していることを指摘、知識や創造性を究極の資源とする経済と社会の仕組みを新たに構築する必然性を説く。02年に米国でベストセラーとなった都市経済学の話題書がようやく邦訳された。 科学者、技術者、芸術家、音楽家、建築家、作家、デザイナーといった職能、加えてビジネス・教育・医療・法律など専門家が急増している事実が、本書の前提になる。たとえば米国では、高度な知識や創造力を必要とする職能の従事者は、20世紀初頭には労働力の1割に過ぎなかった。しかし21世紀には、全体の3分の1を占めるほどに増加する。 彼らは脱工業化社会への転換期にあって「勝ち組」となり、経済や政治の中枢で活躍している。ただ他人には無関心で、自己中心的な人が少なくないという批判がある。また何よりも自分たちをまとまった集団とは考えてはいない。彼らが社会問題の責務を積極的に担い、唯一、「21世紀社会の指導者」になると確信する著者は、この層を「クリエイティブ・クラス」と命名、「階級」としての覚醒(かくせい)をうながす。 知識や創造性が産業を生むという議論は早くからある。近年も伝統的な職人の技やアートの力で、欧州の歴史都市が再生を遂げた先例が「創造都市」の概念とともに日本に紹介された。地域に潜む文化的な資産を再評価、内発的に活力の向上をはかる方法論は横浜や金沢でも応用された。 しかし本書は、欧州の実践とは一線を画する。とりわけクリエイティブ・クラスのライフスタイルに着目している点が面白い。彼らは自分の能力が生きる職場、より良い生活環境を求めて、転居することをいとわない。結果として彼らが魅力を感じる都市と、そうではない都市とのあいだで経済格差が拡大すると著者は仮説を示す。 この点を実証するべく著者は、技術・才能・寛容性という三つの指標から、都市や国家の創造力のランキングを試みることの必要性を説く。文化の多様性を認めあい、クリエイティビティに対して開かれた地域に、経済発展の可能性があるとみる理屈だ。原著が出版された際、ゲイ・カルチャーを容認するかどうかを指標として用いた点が話題になったが、必ずしも立論の本質ではない。 創造力のある優秀な人材は、住みやすさと活躍の場を求めて居住地を移し、時にはやすやすと国境を越える。本書で提示された議論は、フロリダの著作『クリエイティブ・クラスの世紀』でさらに展開されている。併読することをすすめたい。 もちろんわが国でもクリエイティブ・クラスの台頭があった。しかしその種の現象を「IT長者」「ヒルズ族」などと名づけて、きわめてローカルな世相風俗に矮小(わいしょう)化した感性はいかにも日本的だ。東京を始め日本の各都市も、国際的な都市間競争にあって、クリエイティブ・クラスを誘引する都市基盤の拡充に力を入れる発想が、これまで以上に必要だろう。 ◇ 井口典夫訳/Richard Florida 都市経済学者の著者はトロント大学ロットマン・スクール・オブ・マネジメント教授。本書は15カ国以上で翻訳された。
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