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マーク・トウェインと日本―変貌するアメリカの象徴 [著]石原剛

[掲載]2008年5月11日

  • [評者]赤澤史朗(立命館大学教授・日本近現代史)

■原作の改変で悪童がヒーローにも

 トム・ソーヤーやハックルベリー・フィンの魅力は、何よりもその自由さの中にあるだろう。彼らの生きる環境には、巨大洞窟(どうくつ)やミシシッピの大河などの広い空間があり、彼らは大人や教師の保護や管理に背いて、自分の知恵と力で行動するのである。

 その物語を書いたマーク・トウェインは、明治中期以来1990年代まで約1世紀にわたって、日本では主に少年児童文学の作家として受容されてきた。しかしその受容には、独特の歪(ゆが)みが伴っていた。本書は彼の作品が日本で翻訳・翻案、そしてアニメ化された時に、原作がどのように改変されていったのかを検証したものである。

 翻訳に当たってしばしば削除・訂正された大きな理由は、ハックルベリー・フィンやトム・ソーヤーが、嘘(うそ)をついたり他人を瞞(だま)したり、相当の悪童ぶりを発揮しているからである。これらの物語には社会や大人たちの偽善や愚かさを風刺する、トウェインの意図も込められていた。しかし日本には欧米にある悪童文学の伝統はなく、特に戦前の児童文学には道徳的な教訓を与えようとする傾向が強く、社会を批判する意識にも乏しかった。

 興味深いのは敗戦後になって、ハックルベリー・フィンを街頭に溢(あふ)れていた戦災孤児の浮浪児と重ね合わせて見る観点が生じてきたことだ。悪口を吐き煙草(たばこ)を吸い、拘束される生活を徹底的に嫌い、それでいてエネルギーに溢れて独自の正義感を持つハックは、戦災孤児たちにそっくりだった。敗戦直後のアナーキーな状況の中で、初めてハックを矛盾に満ちた、しかし身近な存在として理解できるようになったのである。

 これに対し90年代前半に製作されたアニメーションにおいては、原作ではハックが自分の中の黒人差別意識に突き当たって悩むのに、差別撤廃を唱える正義のヒーローに作り替えられ単純化されていたという。トウェインの作品の改変のされ方は、近代日本社会の児童観を映す鏡だったとも言える。本書はその1世紀にわたる変化を追った、注目すべき一冊である。

    ◇

 いしはら・つよし 71年生まれ。早稲田大准教授(アメリカ文学、アメリカ文化)。

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