[掲載]2008年05月18日
■過去の意外な死生観にゆさぶられ
殺人事件の犯人が捕まったとき、被害者の墓に、遺族がそれを告げたことが、しばしば報じられる。法廷に遺影を持参するのも、最近は認められるようになった。
実はこの二つの例、死者とのかかわり方としては、いくぶん違っている。前者は、死者の霊魂が家の墓に長くとどまり、家族を見まもるという、近世以来の考えをひきついでいるのだろう。
これに対し後者では、墓と遺骨のありかとは別に、写真が故人を追憶するよすがとなる。すでに亡い人といかにふれあうかは、この現代でも、微妙に変わりつつある。
まして、日本史の全体においては、古代、中世、近世と、死や霊魂をめぐる考えが、大きく変転してきた。この本は、考古学や民俗学や美術史の見識をも縦横に用いて、変化を明快に跡づけている。
とりわけ、中世の葬送儀礼についての記述が興味ぶかい。死者の極楽往生を願って、その縁者が、高僧や著名人の祀(まつ)られる場所に、骨を納める。そうした霊場は、開かれた供養の地として、誰もがそこに納骨できたのであり、近世以降の、特定の家族のみを祀る墓とは大きく異なっていた。
死をめぐる過去の日本の思想は、いわば内なる他文化である。その意外さが思考をゆさぶり、死生観の今後について、じっくりと考えさせる。
著者:佐藤 弘夫
出版社:岩田書院 価格:¥ 2,800
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