[掲載]2008年5月18日
■アイデンティティーの行方を考える
「台湾問題をどのように理解するか」という問いは地政学的にも歴史的にも日本にとって極めて重要である。また李登輝・陳水扁と続く「台湾化」の20年を経た後、外省人(第2次世界大戦後に中国各地から台湾に渡ってきた人々)2世の馬英九が3月の選挙で民進党候補に圧勝し、今月20日新総統に就任する。外省人による台湾統治の復活が、今後の台湾自身、中台関係、日本を含む東アジアの国際政治をどのように変えていくのか。かつて李登輝自身が「台湾人としての悲哀」と表現した台湾人アイデンティティーはどこへ行くのか。本書はこうした今日的問いを考えていくうえで極めてタイムリーなものとなった。
李登輝時代の90年代、台湾の政治情勢、政治システムは急激に変化し、新たな政治秩序が形成された。多くの外省人は李登輝の政治に強い不満を抱きながらも、台湾に「根を下ろす」(台湾化、本土化)度合いを強めた。アンケートによれば外省人の多数は今日においても中国人と台湾人を同一種族同一民族であり、台湾は中国の一部で、「両岸統一」は堅持すべき原則と考えている。が同時に台湾人とは異なるとも感じてきた。しかし近年では、「両岸統一のために台湾を犠牲にすることは絶対にできない」「伝統的中国文化は離れられないが、別れて暮らすことと関係を断絶することは全く別のもの」といった考えも広がった。外省人は政治的困惑を引きずりながらも歴史的必然として「台湾化傾向」を強めていると著者は見る。「新台湾人」を前面に押し出した馬英九の圧勝は、外省人と本省人の重なり始めた台湾化の政治的表出といえるかもしれない。
著者はフランスの気鋭の台湾研究者で、「外省人にとって台湾とは何か」という問いにチャレンジするため、5年間にわたる台湾での研究を踏まえ、自ら実施した膨大なアンケートの結果の分析などを通して進めた研究の成果である。よくある幾つかのインタビューの収録、体験談、新聞や研究機関の世論調査を集めたものではなく、学術的に質の高い書となっている。
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上水流久彦、西村一之訳/Stephane Corcuff 71年生まれ。リヨン政治学院准教授。
著者:ステファン・コルキュフ
出版社:風響社 価格:¥ 2,625
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