[掲載]2008年5月25日
■生産よりも幸福をめざす国の素顔
しきりとチベット問題が話題になっているが、チベット仏教文化圏は非常に広い。中でもブータンには、チベット仏教の伝統が色濃く残されている。著者はそれに惹(ひ)かれてブータンを訪れ、政府の顧問として10年も滞在し、その後もこのヒマラヤの高地の国と深くかかわってきた。
それにしても、著者が最初に訪問を企てた30年前のブータンは鎖国中で、有力なツテがあっても3年近くかかってようやく入国できたというから、その徹底ぶりには驚く。
今でもブータンは出入国管理が厳しく、観光客の流れさえも徹底して抑制している。美しい自然と仏教文化に根ざした社会を守ることを国是として、GNP(国民総生産)ではなくGNH(国民総幸福)をめざしてきた。世界中が開発に毒されている昨今、これはブータンの賢明な生き残り策と言える。本書には、暮らしに根付いた仏教について、興味深い記述も多い。
さらに、先代の国王による上からの民主化と自主的な譲位を描いている。時代を先取した国王への著者のまなざしは、個人的な交わりのゆえもあり温かい。
実は評者の勤め先でも、ブータン人の留学生が帰国中に、民主化の中で上院議員として今春当選した。新時代のブータンと日本のいっそうの交流を望みたい。
著者:今枝 由郎
出版社:岩波書店 価格:¥ 777