[掲載]2008年5月25日
■スタートからの格差を克服するには
この論文集が扱っているのは、掛け値なしに重要で目を背けることのできない主題である。著者らによれば、未婚の子を含む世帯の貧困率は約15%、とくにひとり親世帯で高く、また1990年代後半から増加している。
執筆陣には、児童福祉研究者のほか、児童養護施設や婦人保護施設など、福祉の実践者が名を連ねる。現場からの報告は、保育料滞納問題、虐待のハイリスク要因としての貧困等を取り上げており、貧困に起因する諸問題の広がりをあらためて痛感させる。
私自身、近年、教育格差に関心を有するため、この本の企図を貴重だと思う。現代社会は業績に応じて富が配分されることを正当だと認める社会である。競争の結果として富の不平等が生まれるのは当然の帰結に過ぎない。にもかかわらずなぜ、子どもの貧困は、注視されねばならないのか。だれにでも機会が開かれた競争という業績主義社会を支える「公正」の前提が、子どもの貧困の存在によって容易に突き崩されてしまうからだ。子どもの貧困は、富の格差が子世代へと再生産され、人生のスタートラインにおいて機会がけっして平等に開かれているわけではないことを端的に示すからである。
この本の読者は、貧困という現実を生きることを、自己責任からではなく余儀なくされた子どもたちの存在を目の当たりにし、彼らを生み続ける社会構造に対して怒りを共有するだろう。「貧困は見ようとしないと見えない」。それを見せてくれる点に本書の最大の貢献がある。
だが問題は、その次の問いにある。なにをなすべきか。
前政権は再チャレンジ可能な社会の建設を目標に掲げたが、焦眉(しょうび)の急は再チャレンジ以前にある。編者のひとり浅井春夫は、いまの社会福祉政策が子どもの貧困を克服する方向ではなく貧困児童の排除政策の色彩を強めていることを憂う。とくに重要なのは、表面上の機会均等ではなく実効的な機会の均等を保障するために、貧困層を手厚く支援する「積極的格差」原則の提案である。政策転換を期待したい。
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あさい・はるお、まつもと・いちろう、ゆざわ・なおみ
出版社:明石書店 価格:¥ 2,415
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