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とける、とろける [著]唯川恵

[掲載]2008年6月1日

  • [評者]阿刀田高(作家)

■女性が女性の性を描いて、少し怖い

 小説って何だろう。先人たちがよい言葉を残している。「読み終えて、ここに人生があると思う。それが小説だ」あるいは「小説とは男と女のことを書くものです」そしてまた「おもしろい話を聞かせることです」などなどと。

 9編の短編小説を集めた『とける、とろける』を読んだ。なるほど、ここには人生が……現代の20〜30代女性の日常がある。男と女のことが綴(つづ)られている。女性作家が女性の性を書いているから、

 「やっぱりそうなのか」

 と、おもしろい話である。

 たとえば冒頭の『来訪者』ではヒロインは夫に見捨てられている。その女友だちは嫉妬(しっと)深い夫に悩まされながらもべつな男に夢中になり「彼のセックス、最高なの」と次々に告白する。そのすばらしさは尋常ではないらしい。そしてその男を「あなたにも紹介してあげる」とのこと。だが、その実、彼女は心のバランスを崩した病人かもしれないのだ。「あの告白、本当なのかしら」

 いぶかるヒロインの家に紹介された男が来て立っている。ヒロインもとろけるのだろうか。

 二つめに置かれた「みんな半分ずつ」は、愛しあい、なにもかも半分ずつと約束してきた夫婦が離婚することとなり、ヒロインは「あれも半分、これも半分」と家具などの分配を求め、ついには愛人のもとへ走る夫の背中に「あなたの体の半分も私のものよ」と包丁を手に近づく。

 性の喜びは女性にとって独特のものだろう。男性のように一様ではない。すこぶる日常的で、だれしもがそれなりに享受できるけれど、特上もあれば無味乾燥もある。現代はそれを選ぶ自由を(一応は)女性に許しているが、この自由は選択も統御もむつかしい。マニュアルはなく、踏み込んで密(ひそ)かに迷うよりほかにない。

 本書は軽い風俗小説集を装っているが、同様のドラマを秘めている人は、思いのほか多いのかもしれない。いわゆる女性の“小さな死”(エクスタシィ)が本物の死につながるストーリーが多く、少し怖い。

    ◇

 ゆいかわ・けい 55年生まれ。『肩ごしの恋人』で直木賞。『愛に似たもの』ほか。

表紙画像

とける、とろける

著者:唯川 恵

出版社:新潮社   価格:¥ 1,470

表紙画像

肩ごしの恋人 (集英社文庫)

著者:唯川 恵

出版社:集英社   価格:¥ 630

表紙画像

愛に似たもの

著者:唯川 恵

出版社:集英社   価格:¥ 1,365

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