[掲載]2008年6月15日
■時代を牽引する大学になるためには
ヴィルヘルム・フォン・フンボルト。世界最初の近代大学であるベルリン大学の基本構想を作った人物。19世紀ドイツの大学は、フンボルト理念に導かれて研究中心主義を旗印に世界を席巻した。近代大学の成立を知る上でフンボルト理念の存在を避けることはできない。これが大学史が教える定説である。
他方、いまやフンボルト型大学は時代遅れだという認識も定説になりつつある。研究至上主義で学生の教育を疎(おろそ)かにしてしまう、大衆化した大学にとってもはや現実的有効性を持たない、等々。この本はフンボルト理念にまつわる誤解を解き、定説を吟味してその現代的意義を再評価する企てである。
19世紀初頭のベルリン大学では系統的なカリキュラムはないに等しく、学生はまったく自由に講義を選択した。「自由」な学生は乱暴狼藉(ろうぜき)を働き、些細(ささい)なことで決闘に走った。なぜか。フンボルトは大学自治の守護神のように扱われる。だが彼は教授会に教授選考権を与えることに反対した。なぜか。アメリカや中国、日本へと移植されたドイツ・モデルは変質を経験する。なぜか。
著者にとって、学問とは好奇心を満たす旅であるのだろう。そのため、ミステリー風に、また丁々発止の講談調で、著者自身の謎解きが披露され、飽きることがない。圧巻は、01年にドイツの歴史学者パレチェクが提起したフンボルト理念神話説の検証である。19世紀を通じてフンボルトの存在は知られておらず、その大学構想も100年にわたって倉庫に眠り続けたという。だとすれば、フンボルト理念は後世の人が創作した神話に過ぎない。本当か。
謎解きの末に著者がたどり着いたのは「フンボルトに戻れ」ではない。同時に「フンボルト理念は終焉(しゅうえん)した」でもない。大学が時代の牽引車(けんいんしゃ)たるためになにをなすべきか――フンボルトがその時代に問うた、その問いの中にこそ、フンボルトの現代的意義が発見される。大学の原点に立ち戻るために、私たちはフンボルトの豊穣(ほうじょう)な理想に戻らねばならないのである。
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うしおぎ・もりかず 34年生まれ。桜美林大招聘(しょうへい)教授。『世界の大学危機』など。
著者:潮木 守一
出版社:東信堂 価格:¥ 2,625
著者:潮木 守一
出版社:中央公論新社 価格:¥ 819
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