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磯崎新の「都庁」―戦後日本最大のコンペ [著]平松剛

[掲載]2008年6月22日

  • [評者]橋爪紳也(建築史家、大阪府立大学教授)

■幻の都庁舎を想像するのも刺激的だ

 建築家の評伝でも作品集でもない。日本の建築史にあってエポックとなった「出来事」を扱う「建築ノンフィクション」である。

 時は、阪神タイガースが21年ぶりの優勝を遂げた85年の秋。舞台はバブルの予感が漂う東京である。主役はポストモダン建築で世界的に高名な磯崎新。建築界の巨匠であり、磯崎の師匠である丹下健三が助演にまわる。この2人の若い弟子たちも証言する。役者はそろった。

 新たな庁舎の設計にあたって、東京都は九つの設計事務所に3カ月半で提案をまとめることを依頼し、審査のうえで実施案を選ぶこととした。丹下の研究所も含めて、大所帯の大手事務所が指名されたのは当然だ。加えて超高層ビルを設計した経験のない磯崎のアトリエにも、なぜか声がかかったことから物語は始まる。

 「ぶっちぎりで勝とう!」と連呼する先生に、体調の思わしくない高弟が挑む構図だ。結果は周知の通り、副都心の空に丹下の作品がそびえたつことになる。格子状の外観が、古民家の天井を参考にしたという挿話が面白い。「日本国の建築家」を自負する丹下は、ゴシック教会風のツインタワーの立ち姿に「和」の表情を与えた。

 対して磯崎は超高層ではなく、広場に面した中層のビルを配置、球体とピラミッド型の造形が浮遊する案を提出した。空中都市は現実味に乏しいが、あえて斬新な作風を示したという風評もあった。しかし本書では、十分に検討された案であったと論証する。

 戦後最大の話題となったこの設計競技を軸に、戦前から今日にいたる建築家と国家との関係、建築家たちの思考法とデザインの手順、設計競技でのかけひきや師弟関係のあやなど、話は建築設計という生業全般にひろがる。時に専門的に、時に軽妙に展開する筆致に引き込まれる。

 勝者である丹下が晩年に手掛けた台場のテレビ局のビルに、敗者である磯崎の「幻の都庁」との共通点を見るエピソードが印象的だ。建たなかった建築には、私たちの想像力を刺激する権利がある。

    ◇

ひらまつ・つよし 69年生まれ。01年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。

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