[掲載]2008年6月22日
■声なき声を聞き、「影の真実」を描く
いずれの国にも「光と影」の部分がある。「台頭中国」「超大国中国」は光の部分だが、格差・貧困、汚職、環境悪化などは世界を圧倒する影で具体的に目に見えるものである。しかし政治や社会面での影は、当事者や伝達者が多くの政治圧力を受けるため、外からは断片的にしか見えない。出版後亡命を強いられた何清漣の『中国 現代化の落とし穴』(草思社)、発禁になった陳桂棣・春桃の『中国農民調査』(文芸春秋)などは、危険を顧みずあえて国内出版に踏み切った価値ある邦訳本である。そしてここで扱う2冊もまた中国理解に不可欠な「影の真実」を描き出した労作である。
両著書に共通する特徴は直接のインタビューである。抑圧された無告の民、社会の落後者、反社会的な人々などに彼らは実に精力的に会っている。ギ・ソルマンは特に現体制の批判者、犠牲者・抵抗者に絞り、政治体制の転換を強く意識している。インタビューは78年「北京の春」のヒーロー魏京生から始まり、天安門事件のウルケシュ、エイズと闘う医師・高耀潔、キリスト教徒、法輪功などの指導者、改革の犠牲者である農民、改革の成果を疑う知識人、チベット族のリーダー、台湾の馬英九など、最後にベストセラー作家で「反逆の先導者」姜戎で終わる。彼は中国の未来を革命、崩壊の可能性はなく、民主制への漸進的移行は魅力的だが展望が見えず、独裁体制が続く可能性が高いという危機意識を持つ。党が“声高な中国”を体現しているからこそ、自分は“沈黙する中国”の声を届けねばならないと主張する。が、登場する人々の多くはむしろ代表的な体制批判者たちである。
これに対して廖亦武の著書はまさに「声なき声」の集成である。浮浪児、乞食(こじき)大将、麻薬中毒者から同性愛者、元の地主や紅衛兵、修行者、破産企業家ら実に31名のインタビューから構成されている。彼らの声からは不条理、絶望、諦観(ていかん)などが響いてくる。光からでは見えない別の「真実」を見ることもできる。貧困な農村から他の農村への人身売買、貧困の滞留である。ある人買いは開き直る。「山奥の水と土はとてもいいから、女の子は化粧をしなくても、みずみずしくて白いほっぺに紅が映える。北方で最も足りないのはこのみずみずしい“商品”だ。独り者があまりにも多いから俺(おれ)がめでたい縁組を結んでやったのよ」。あるいはまた老右派の話には生の人間の息づかいが感じられる。「党を愛するか彼女を愛するか」を問われ、「彼女を愛する」と答え、自分は牢獄(ろうごく)へ、彼女は新疆に流刑され、長い歳月を経て最後は「黒い(反動)夫婦」として幸せをつかむ。著者は「馮おじさん、我々の世代に向けた、家族を大切にせよという心の教育に感謝します」と結ぶ。
そこには「中国的特色」ではなく、他国人と同様の感性、意識、願望を持つ人間の群れとしての中国人社会が浮かび上がってくる。「特色ある中国」を強いる現実の社会はそうした人々にはむしろ苦渋であり悲劇なのかもしれない。声なき声、低層から見れば中国は多分「普通の国」を求めているのだろう。
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『幻想の』山本知子、加藤かおり訳/Guy Sorman▽『中国低層』竹内実日本語版監修、劉燕子訳/リャオ・イウ。
著者:ギ・ソルマン
出版社:駿河台出版社 価格:¥ 2,940
著者:廖 亦武
出版社:集広舎 価格:¥ 4,830
著者:何 清漣
出版社:草思社 価格:¥ 1,995
著者:陳 桂棣・春桃・納村 公子・椙田 雅美
出版社:文藝春秋 価格:¥ 2,900