[掲載]2008年7月20日
■近現代日本の芸術思想を渉猟しつつ
片山杜秀の名前を知ったのは、もう十数年前のことである。お世話になっていた日本政治思想史の研究者から、同じ分野の注目すべき先達として教えられ、大学の紀要に載った論文を、さっそく複写して読んだのを思い出す。
しかしまもなく、この同じ人物が、週刊誌に連載コラムを書いているのを発見して、また驚くことになった。何しろとりあげる話題が、音楽・映画・文学、そして哲学や政治と、多岐にわたる。とりわけ、近現代日本の、どちらかと言えば陽(ひ)のあたらない芸術作品や思想書に関する蘊蓄(うんちく)の、おそるべき深さ。
ようやく昨年、その思想史研究の仕事の一端が、『近代日本の右翼思想』(講談社選書メチエ)としてまとめられた。そして今度は、「レコード芸術」誌上に連載されたCD評を2冊に収める、音楽論集の登場である。
もちろん、新譜の単なる紹介で話が終わるはずはない。たとえば、坂本龍一のアルバムに関する批評が、作曲の師匠筋をたどって、明治時代以来の音楽家の系譜学へ、さらに、日本の伝統と西洋音楽との出会いという大問題へと展開してゆく。
片山は、時代に背をむけ、過去の文化に没入しているふりをしながら、独自の角度で今の時代を切ってみせる。ヤニス・クセナキスの音楽から、現代社会の不透明性を読みとったり、9・11テロ事件の直後に、団伊玖磨の作品におけるアメリカ批判と大陸性を語ったりするくだりで、その力業を堪能できる。
しかし、肩肘(かたひじ)を張らなければ読めないような本ではない。指揮者、ギュンター・ヴァントの舞台でのうしろ姿を、TVアニメ「ガンバの冒険」に出てくる白イタチのノロイにたとえるなど、絶妙な表現がちりばめられていて楽しめる。
現代音楽は難しくてどうも、という人や、武満徹がこの分野で日本唯一の巨匠だと思っている人は、2冊を通読すれば、まったく考えが変わるだろう。そして読了後、「近代」や「日本」を見る視点も、いつのまにか新しくなっていることに気づくはずである。
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かたやま・もりひで 慶応大准教授。
著者:片山 杜秀
出版社:アルテスパブリッシング 価格:¥ 1,785
著者:片山 杜秀
出版社:アルテスパブリッシング 価格:¥ 1,995
著者:片山 杜秀
出版社:講談社 価格:¥ 1,575
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