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四谷怪談地誌 [著]塩見鮮一郎

[掲載]2008年8月10日

  • [評者]唐沢俊一(作家)

■にぎわう江戸の知られざる裏の姿

 「隠亡堀」「三角屋敷」「蛇山」……聞くだけで何やら怪しい連想が浮かぶ地名群だ。芝居通なら、いずれも4世鶴屋南北の怪談劇「東海道四谷怪談」に登場する地名である、とすぐわかるだろう。おどろおどろしい幽霊の復讐譚(ふくしゅうたん)のイメージをかたち作る補助として、これらの地名は多大な効果をあげ、記憶に強く刻み込まれている。

 人々の行動範囲が限られていた江戸時代は、現代とは比べ物にならないほど土地と人との結びつきが強かった。作者の南北はその土地にまつわる因縁ばなしなどのエピソードをバックグラウンドとして(例えばタイトルの四谷という地名は、お岩のモデルとなった狂女が、この芝居の時代から百数十年前に四谷に住んでいたという記録からつけられたものである)、パッチワークのようにイメージをつづり合わせ、江戸時代を代表する傑作歌舞伎を書き上げた。

 ある意味、この戯曲で作者が真に描こうとしたのは、お岩や伊右衛門や直助権兵衛といった登場人物たちが生きて暮らしていた、将軍様のおひざ元としてにぎわう江戸の街の、知られざる裏の姿だったのかもしれない。

 陰惨な怪談も、こうして読むとユニークな江戸案内として楽しめる。怖い話が苦手な向きにも安心して薦められる教養的ガイドブックである。

表紙画像

四谷怪談地誌

著者:塩見 鮮一郎

出版社:河出書房新社   価格:¥ 2,100

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