[掲載]2008年9月28日
■読了後も気がかりなあの時の脇役
平穏な日常などなんぼのものか、と独り暮らしになって思うようになった。あんなにも平穏を望んでいたのに。
ただ一つ、いいことは小説を中断せずに読めることか。
たとえば、山本文緒の小説。作品に登場してくる誰も彼もが、まるで今をともに生きている親しいあの人この人のようで、にわかに私の日常までもが起伏に富んでくる。
そう、かつての私のように、作中の誰もが次々と降ってくる人生の面倒に振り回されている。しかもそういう場所から出ていくことがかなわないまま、とってもけなげに生きているのだ。
著者の久々の作品集である本書には、表題の「アカペラ」を含めて、三つの中編小説が収められている。
それぞれの主人公たちは、15歳の少女と血の繋(つな)がらぬ祖父、ダメ男と初恋の相手の娘、未婚の姉と病弱な弟、などケアを媒介にして支えあっている人たち。いずれもお互いがお互いの帰る場所であるような彼らの微妙で切実な愛情や絆(きずな)のありようが描かれている。
そして、この主人公たちに関(かか)わっていたり、ついまきこまれてしまったりする人たちがいて、作品にいい味を出している。
物語の脇役というのだろうか。家出中で常に「いない母」とか、困った時にだけ思い出される「友人」とか、降って湧(わ)いたように現れて、あっけなく去っていく「年下の男」とか。
いずれも、その登場なしには、物語が成立しないような誰かである。詳しく描かれていない分だけ、彼らはどんなわけがあって、あの時、あのようであったのだろうか、などと読了後も気がかりで後を引いてしまう。
そして、自分の人生にも陰影と奥行きを与え、つかの間の日々を起伏に富んだものにしてくれたあの人、この人がいたことを思い出させてくれる。とてつもない懐かしさとせつなさを伴って……。
こんなふうにね、山本文緒の小説はいつもさりげなくも、思いがけない効用を読者の日常にもたらしてくれるのである。
著者:山本 文緒
出版社:新潮社 価格:¥ 1,470
著者:山本 文緒
出版社:文藝春秋 価格:¥ 480
著者:山本 文緒
出版社:角川書店 価格:¥ 1,470
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