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ぼくらの時代には貸本屋があった [著]菊池仁

[掲載]2008年10月5日

  • [評者]唐沢俊一(作家)

■大衆の意識のうねりとなった発信源

 高度経済成長期の子供たちはなぜ、ああもチャンバラが好きだったのだろうか。いや子供は大人のまねをするもので、評者も子供のころ、大の大人が熱を込めて、眠狂四郎と座頭市が勝負したらどちらが強いか、などということを語りあっているのを聞いたことがある。1950年代末から60年代を通しての日本は、まさにチャンバラ・エージであり、そしてそのブームを陰で支えていたのが貸本屋に並ぶ多くの剣豪小説であった。

 これは戦後の、企業国家として新たな秩序を整えつつあった日本で、そこに生きる大衆が“企業の論理”に取り込まれつつあることの反映だった。企業戦士である自分たちの姿を、『柳生武芸帳』での、組織の一員として戦う剣士たちに重ね合わせるか、または『眠狂四郎無頼控』の主人公・狂四郎の非現実的なまでのニヒリズムに共感を得てストレスを解消するか。どちらにせよ、貸本をその発信源とする、大衆の意識のうねりというものが、あの時代の日本にはあったのである。

 本書は、そのタイトルから最近はやりの昭和30年代ノスタルジーものと思われがちだが、著者の貸本体験をもとに柴田錬三郎、五味康祐、村上元三などの作家を論じた大衆作家論であり、日本戦後論でもある。

 著者は椎名誠らが創刊した、ユニークな書評雑誌「本の雑誌」の常連執筆者でここの書き手らしく膨大な読書量を誇りながら、その読書目的は“とにかく面白いものを読みたい”という願望に集約され、いわゆる文芸評論的な臭みを排除、というよりは嫌悪している風があった。

 今回のこの著作では、いくぶん文芸評論的な部分もあるが、やはり、自分の読書体験の原点を行きつけの貸本屋のおばさんとのやりとりに持ってきているあたり、嫌みがなく、非常に好感が持てる。時代小説中心に語って、最後に恋愛小説や学園ものといったジャンルにさらりと触れている構成もにくい。願わくは、次の本では現在の読書界で忘れ去られている、当時の貸本屋限定の人気作家も取り上げてもらいたい。

    ◇

 きくち・めぐみ 44年生まれ。評論活動を展開。著書に『新宿伊勢丹村』など。

表紙画像

柳生武芸帳〈上〉 (文春文庫)

著者:五味 康祐

出版社:文藝春秋   価格:¥ 990

表紙画像

柳生武芸帳〈下〉 (文春文庫)

著者:五味 康祐

出版社:文藝春秋   価格:¥ 990

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眠狂四郎無頼控 (1) (新潮文庫)

著者:柴田 錬三郎

出版社:新潮社   価格:¥ 620

表紙画像

本の雑誌 304号

出版社:本の雑誌社   価格:¥ 530

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