[掲載]2008年11月16日
■映画なぞる大胆トリックの会心作
「映画『アンタッチャブル』を観(み)てから読むと、よりいっそうおいしく楽しめます」
と巻末にあるが、まさにその通り。良質の小説を着実に発表し続けてきた山之口洋が、新書の書き下ろしでエンターテインメントに徹しきったこの長編は、なんともビールが旨(うま)くなる極上の一冊。
若きキャリア警官の主人公・魚崎が研修先の財務省酒税課で出会った根津は、なんと禁酒時代のアメリカでカポネとやりあった役人エリオット・ネスに心酔する男。彼はビールを自家醸造する愛好家たちを映画のように颯爽(さっそう)と取り締まりたいと夢想しているのだ。根津は魚崎のことをいつの間にか映画に登場したちびの会計係ウォレスに同一視し、モデルガンを懐に忍ばせネス気取りで無茶(むちゃ)な捜査を進めてゆく。ところが自ビール推進派の親玉もなぜかカポネの真似(まね)を始める。魚崎の恋人まで誘拐してカポネがつきつけた前代未聞の要求とは?
少女が爆弾テロの犠牲になる映画の最初の見所(みどころ)を大笑いのシチュエーションに変えた冒頭から、快調に物語は進んでゆく。でもこれってただの映画のパロディー? いや、実は登場人物たちが映画をなぞってゆくこと自体、大胆なトリックになっているのだ。
自家醸造問題にも深く斬(き)り込み終盤の展開はまるで一流のSFのよう。一気読み必至の会心作。
著者:山之口 洋
出版社:祥伝社 価格:¥ 900
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