[掲載]2009年11月1日
■市場法則と社会主義のはざまで
ソ連と東欧諸国が90年前後に社会主義体制から資本主義に転換したのに比し、アジアでは80年代に中国とベトナムの両国が社会主義の「建前」を崩さずに市場化に対応してきたのはなぜなのか。これは多くの人が抱く疑問であろう。なかでもベトナムは、86年に明確に「刷新=ドイモイ」政策を掲げ、社会主義を維持しつつ市場原理を取り入れるという政策を遂行してきた。その転換はどのような経緯でなされたのか。本書は、この問題に答えるものである。
本書はまず、ソ連のゴルバチョフのペレストロイカの影響について、それを認めつつも、ベトナム内部での現実への対応から来た転換という面を重視する。その上で、ロンアン省など地方での経験が党の中央を変えていく過程が、史料に忠実に描かれる。ベトナム戦争が終わったにもかかわらず、中越戦争の影響もあって、80年代初頭のベトナムは深刻な経済困難に直面していた。たとえば米の調達が市場を無視した価格政策のために著しく困難となった。これを乗り越えるために、計画経済の旗の下に行われた「官僚主義」「丸抱え主義」の経済運営の改革が求められた。ソ連的な「普遍モデル」の社会主義は乗り越えられる必要があった。
そして、価格・賃金・通貨の改革によって市場的原理を取り入れて経済を活性化していく必要性が次第に認識されていく。社会主義と市場法則との間の道の模索が続いた。そして79年以後、ジグザグを経つつ86年12月の第6回共産党大会で「ドイモイ」政策が決定したのだった。
この間の政策転換を見ると、政治局員チュオン・チンの政治的指導力が注目されるが、ベトナムの党の現実感覚が印象的である。また、下からの会議の積み上げにより一般党員の意見が党の決定に反映されていくオープンさも重要であったと考えられる。
だが、「ドイモイ」の現在はどうなのか。市場原理の中でいぜん社会主義を「志向」し続けているのだろうか。今日から見た政策転換の位置づけを付言してほしかった。
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ふるた・もとお 49年生まれ。東京大学大学院教授。著書に『ベトナムの現在』など。
著者:古田 元夫
出版社:青木書店 価格:¥ 3,150
著者:古田 元夫
出版社:講談社 価格:¥ 673
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