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貧者を喰(く)らう国―中国格差社会からの警告 [著]阿古智子

[掲載]2009年11月1日

  • [評者]天児慧(早稲田大学教授・現代アジア論)

■中国人の「生の声」と「痛み」伝える

 目覚ましい躍進を続けている中国。しかし他方で深刻な環境汚染やエイズなど感染症の広がり、貧しい人々の悲惨な状況や抗議、彼らに対する権力者の弾圧や甚だしい腐敗などが頻繁に伝わってくる。この巨大な中国の全体像を、リアリティーを持って描くにはどういう研究をしたらよいのか。この問いは、中国研究を始めた頃の評者自身の悩みでもあった。著者も本格的な研究開始後まもなくこの問題にぶつかっている。

 著者は徹底したフィールドワークこそがその問題解決のカギだと実感する。その研究態度に驚きと同時に敬意を持つことができるのは、長期に及ぶ現地調査の多さのためだけではない。深く現地に入りこみ、HIV感染の被害者との直接の接触などを通して彼らの生の声を聞きとろうとし、そのために、何度も現地に足を運び、数々の危険に立ち向かい、限界はあるにせよ弱者の「痛み」を感じ取ろうとする姿勢を貫いていることである。

 本書は、副題が示しているように中国社会の歪(ゆが)みを「格差社会」としてとらえ、その主な被害者=農民の側から現状を描き出し、問題の本質に迫ろうとしている。対象としたテーマは、売血で広がった「エイズ村」の悲劇、重税から逃れようと都市に流れた農民工の悲惨で不安定な日々、安価での土地放棄を余儀なくされた失地農民の転落、格差の広がる歪んだ学歴競争などである。そこに共通する問題は、差別制度ともいえる農村戸籍制度の堅持、「公平なルール」を保証しない政府、その上で弱肉強食という競争原理が展開されていることだと指摘する。政治社会学のしっかりした分析枠組みがあれば、調査結果をより理論的に説明することも可能だろう。

 本書は単なる「中国批判のための書」ではない。再訪した幾つかの村で、農民の主体的な力により活気が戻っている状況も描いている。悲惨な現実を可能な限りリアルに描きだしながら、中国の人々とともに問題解決のために自らも参加しようという強い意志があふれ出ている。新進気鋭の行動的知識人の力作である。

    ◇

 あこ・ともこ 71年生まれ。早稲田大学准教授。主に現代中国の社会変動を研究。

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