[掲載]2009年11月1日
■へなちょこ青年が本気になるとき
武誠治(たけ・せいじ)という主人公、もともとはのんきな性格である。24歳。フリーター。〈このままではまずいな、という危機感はうっすらと心のどこかにある〉ものの、〈まだまだ大丈夫。まだ本気になってないだけで、本気になればきっとどうにかなる〉と思っている、まことにへなちょこな青年なのである。
そんな彼が本気にならざるをえない状況に放り込まれる。25歳の誕生日を迎えるのと前後して、ご近所のいじめによって母親が心を病んでいることを知らされたのだ。自殺まで図った母親を救うには家を引っ越すしかない。そのためには、自分が働いてお金を貯(た)めるしかない。かくして誠治は就職に奮闘し、職場で奮闘することになるのだった。……と書いてしまうと、微妙な既視感に襲われる。筋書きだけを乱暴に取り出すと「一念発起の成長物語」という、植木鉢のようなお行儀の良い枠組みにすっぽりと収まってしまいかねないのだ。
しかし、有川浩さんの描く物語の樹(き)は、その植木鉢に収まったふりをしながら、じつは鉢の底を突き破って、より広く深い大地へと根を張り巡らせているのではないか?
誠治は悔やんでいる。母親の異変に早い時期に気づけなかったことへの後悔が、軽い言葉で綴(つづ)られた物語をしっかりと支えている。後悔とは、言い換えれば〈まだまだ大丈夫〉や〈きっとどうにかなる〉が生んでしまった悲しみである。誠治自身の言葉を借りれば〈間に合わなかった〉苦みである。その苦みが、へなちょこな誠治を踏ん張らせるのと同時に、若い世代の人気を集める有川さんの作品世界を、より広い層へと染みわたらせてくれる。これは、若者の単純な自立の物語ではなく、後悔を背負って生きること、それを乗り越えることを描く物語なのだと受け止めれば……同僚の女性が誠治に言う一言が、それぞれに後悔を背負って生きているすべての読み手の胸に力強く、美しく響くはずなのだ。
〈諦(あきら)めてない武さんは間に合ってます。絶対にお母さんのこと、間に合ってます!〉
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ありかわ・ひろ 作家。『図書館戦争』『三匹のおっさん』『植物図鑑』など。
著者:有川 浩
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著者:有川 浩
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著者:有川 浩
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著者:有川 浩
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