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戦場の掟(おきて) [著]スティーヴ・ファイナル

[掲載]2009年11月1日

  • [評者]松本仁一(ジャーナリスト)

■超法規の傭兵会社、イラク戦争の鬼子

 03年3月、米国は国際社会の制止を振り切ってイラク侵攻に踏み切った。その後のイラクがどうなったか。10月13日のイラク政府発表によると、08年10月まで、8万5694人のイラク人が死んでいるという。米兵の死亡も4300人を超した。

 本書は2万人とも7万人ともいわれる傭兵(ようへい)に焦点を当て、あの戦争がいかに愚行だったかを実証していく。物語の軸は、06年に武装勢力に拉致されて行方不明になった米国人傭兵、ジョン・コーテである。

 コーテは米軍空挺(くうてい)隊を除隊後、大学に入るが、単調な生活にあきたらず、小さな警備会社の誘いでイラク入りする。要するに傭兵企業だ。あぶれ者の寄せ集めのような集団だが、それでも1千万ドルの投資がらくに回収できるほどの繁盛ぶりである。コーテら欧米人傭兵には月7千ドルもの給料が出た。

 仕事は、米軍に代わって戦争をやることだった。

 米国はイラクで「軽い戦争」を企図し、十分な兵力を準備しないまま電撃戦に突っこむ。その結果、イラク軍には勝ったが戦後の治安をめちゃめちゃにしてしまった。

 砂漠の道路で、動きの鈍い補給トラック部隊は武装勢力のかっこうの標的である。米軍は米兵の犠牲を増やしたくない。そこで輸送およびその警備という、一番ねらわれやすい仕事を傭兵会社に任せるようになった。米軍の補給トラック隊の警備、日本の自衛隊やイタリア軍の車列の警護などである。

 そのための米軍の支出は戦争開始いらい約850億ドルに上る。数多くの傭兵企業がその蜜に群がった。ろくな教育や訓練もしないまま。

 問題は、そんな傭兵の武器使用と先制攻撃を、米軍が黙認してしまったことだと著者はいう。「怪しいと思ったら撃っていい」ということである。さらに、傭兵の行為はイラクの法律では裁かれないとした。彼らの中には性格に問題があるような者も多い。彼らはイラクの人々に向け、ごく安易に発砲しはじめた。

 たとえばニスール広場事件。バグダッドの大学生が医師の母を車で送っていく途中、傭兵の装甲車列と遭遇した。とたんに傭兵が一斉射撃を始めた。2人は数十発の弾丸を受けて即死。興奮した傭兵がさらに射ちまくったため、通行人を含めて合計17人が殺された。調査した米軍が「敵の活動はまったくなかった」と報告したにもかかわらず、その大量殺人は不問となった。

 さて、コーテである。拉致された年の暮れ、イラク人有力者に送られたビデオに、顔にアザをつくった彼が映っていた。それきり消息は途絶える。そして08年2月、彼の「証拠」が見つかった……。

 イラクでは今、何の規律もない蛮行が傭兵たちによって日常的に繰り広げられている。彼らへのイラク住民の怒りは大きい。そうした感情が拉致事件の背景にあるのは確実だ。傭兵産業。イラク戦争が生み出した鬼子である。

    ◇

 伏見威蕃訳/Steve Fainaru 米国のワシントン・ポスト紙記者。04年から特派員としてイラクをリポートしてきた。本書(原題は『Big Boy Rules』)で08年のピュリツァー賞(国際報道部門)を受賞した。

表紙画像

戦場の掟

著者:スティーヴ・ファイナル

出版社:講談社   価格:¥ 1,890

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