[掲載]2009年11月15日
■製造業の100年 改革史を再検討
副題に「フォードからトヨタへ」とあるように、本書が語る「ものづくり」は、二十世紀の大量生産を牽引(けんいん)した自動車産業に代表される、大規模な工場生産のシステムを指す。
本書では、昭和初期の近代工業が家内工業の手仕事の「ものづくり」から脱却して、戦後の高度成長期に世界に誇る大量生産システムを構築してゆく過程が明らかにされる。それはそのまま「ものづくり」概念の更新の歴史でもある。
しかし著者は、その輝かしい歴史を懐かしむのではない。一般の通念を解体して、この百年間、製造業が何を追求し、それをどう実現してきたのかを再検討するのである。それなくしては、先人の知恵の継承はないというのが著者の信念である。
本書はまず、大量生産時代の幕を開けたフォード・システム=移動式組立(くみたて)ラインという「寓話」を解体する。仕掛品(しかかりひん)が次々にコンベヤーを流れてゆく工場の風景は誰でも知っているが、このシステムで生産効率の向上と大量生産を実現するためには、ラインに供給される部品の仕様と品質が一定であることや、各工程の作業時間の平準化が達成されていなければならない。つまりキーワードは、コンベヤーよりも、生産工程全体の有機的な流れと、それを可能にする互換性部品だったのである。
そして、当時の日本の企業家たちが正確に見抜いたのもそれだった。十分な資本も機械設備も望めない日本で応用できるのは、各工程間の円滑なモノの流れであり、日本人はこれを「流れ作業」と名づけた。またトヨタにつらなる豊田自動織機製作所の豊田喜一郎は、自動織機の開発過程で、部品加工に欠かせない許容公差の概念を身につけていた。喜一郎が、いまだ需要のない一九三○年代に国産自動車の製造に早々と乗り出したのは、加工精度を求められる互換性部品の供給に、目指すべき近代的な工場生産の条件を見たからである。これは、十万点以上の部品ごとの情報をもとにした今日のトヨタの経営管理の原点と言える。
とまれ、「流れ作業」の実現のために、数万点もの部品供給に日々生じる過不足や、各工程に滞留する部品と仕掛品の山をいかに解消するか。必要なときに必要な部品が供給されるジャスト・イン・タイムのシステムをいかに構築するか。戦後の六○年代まで続くその挑戦と試行錯誤の過程の検証は、本書の白眉(はくび)である。とくに、工作機械から人間まで、その作業のすべてを時間で計測して「標準作業」を設定してゆく過程に、かつてフォード・システムを観察し、作業とは何かを見抜いた日本人の眼(め)があると著者はいう。
最少のコストで一定の品質の製品を大量生産する二十世紀のシステムは、労働者の身体と生活をもそこに組み込みながら、規模の経済性を求めて、今日までひたすら拡大し続けてきた。トヨタが先導した日本のこの「ものづくり」が岐路に立ついま、次世代を担う人たちが、本書をぜひ、読み込んでほしいと思う。
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わだ・かずお 49年生まれ。南山大学助教授などを経て現在、東京大学教授(経済学)。共著に『豊田喜一郎伝』『企業家ネットワークの形成と展開』、監訳書にG・オーウェン著『帝国からヨーロッパへ』など。
著者:和田 一夫
出版社:名古屋大学出版会 価格:¥ 6,510
著者:和田 一夫・由井 常彦・トヨタ自動車歴史文化部
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著者:鈴木 恒夫・小早川 洋一・和田 一夫
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