[掲載]2009年11月22日
■ロマンの余白残す伸びやかな旅
猿人フイハイと妖怪ケンモンと凶獣ペシャクパラングを探す旅である。もっとも、それらの正体は不明。高野秀行さんが探しているのは、存在が現地で語り継がれてはいるもののまだ科学的に確認されてはいない「未知動物」――高野さんご自身の言い方を借りれば「そんなもん、いるかよ」なのである。
高野さんはフイハイを追ってベトナムへ飛び、ケンモンの正体を探るべく奄美大島に渡り、ペシャクパラングに惹(ひ)かれてアフガニスタンをさまよう。旅の準備はほとんど整えない。事前情報も必要最小限以下。要するに行き当たりばったりである。未知動物探索歴20年におよぶ高野さんは、今回の三つの旅で意識的にその方法を選んだ。〈もしかすると、何の予断もなしに素のままで飛び込んだほうが「ほんとうのこと」が見えるんじゃないか〉――そんな思いを胸に、道なき道、未知だけが先にある道を往(ゆ)く。
はたして猿人はいたのか。妖怪はどうだ。凶獣の姿は拝めたのか。その答えはもちろん読んでのお楽しみなのだが、「未知人間」にはたくさん会えたようだぜ、とは言っておこう。いや実際、3日もあれば猿人に会えると豪語するベトナムのガイド氏をはじめ、旅で出会う現地のひとがとにかくすごい。「そんなヤツ、いるかよ」。いるのである。行き当たりばったりだからこそ出会えるのである。
高野さんは一筋縄ではいかない面々に戸惑い、あきれ、ずいぶんな迷惑もかけられつつ、しかしそれを楽しみながら旅をつづける。読者を気持ちよく笑わせる一方で、ふっと「ほんとうのこと」をうかがわせる。〈「現実」と「伝説」の間(あわい)〉にひそむ未知動物の背後には、たとえば米軍という大きな「現実」の影も見え隠れしているのだが、高野さんは風通しのいい伸びやかな言葉で旅の記録を書き綴(つづ)ったすえに、〈未知を未知のまま放り出したっていいじゃないか〉――ロマンの余白を残すのである。ただし、そのロマンに色っぽさは皆無。硬派。「そんなロマンチックな旅、あるかよ」。あるんです、ここに。
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たかの・ひでゆき 66年生まれ。作家。『アジア新聞屋台村』『怪獣記』など。
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