[掲載]2009年11月22日
■「民族」や「国民」の意識いつから
実は、われわれがいつ、どのようにして、ネイション(民族、国民)という意識をもち、ナショナリズムを掲げるようになったのかは、いまだに十分に解明されていない謎なのである。19世紀以降ヨーロッパにおいてまずそのような意識が生まれ、それが世界各地に広がったことが、ほぼ承認されている程度である。だが、1980年代以来、このネイションとナショナリズムについて、歴史学などでの議論が進んできた。
本書は、まずその成果をうまく整理している。著者はネイションとナショナリズムはフランス革命前後の近代に政治的・文化的に「構築」されたものであるとする「近代派」に親近感をいだきつつ、それは近代以前から萌芽(ほうが)が見られたのだとする「前近代派」の見解をも尊重する立場に立つ。
その上で、ナショナリズムが19世紀後半に「大衆」を把握して「国家構築ナショナリズム」となったこと、第1次世界大戦後にはじめてネイションの「境界」が強く意識されるようになり、少数派のナショナリズムが生まれたことなどを論ずる。
興味深いのは、それに続くファシズムとナショナリズムとの関係についての議論である。ファシズムは一般に「過激なナショナリズム」と言われているが、両者の関係は必ずしも明らかではない。著者は、19世紀末からのナショナリズムが、大戦後のベルサイユ体制下で領土回復を目指すナショナリズムによって脅かされたり、促進されたりしたときに、ファシズムに結び付いたのだと言う。ルーマニアやハンガリーやドイツがそうで、フランスなどにはこれはなかった。
本書はこのように基本的だが興味深い論点を含んでいて、日本を含むナショナリズム論議の土俵を提供してくれる。また、訳者はナショナリズム論の専門家ではないがヨーロッパ史に造詣(ぞうけい)が深いため、訳語に有益な工夫をこらしている。ただ、やはり最近進んでいる「国民国家」の形成過程の研究が十分に吸収されていない点は、やや物足りない感がする。
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福井憲彦訳/Oliver Zimmer オックスフォード大学歴史学部フェロー。
著者:オリヴァー・ジマー
出版社:岩波書店 価格:¥ 2,625
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