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アジア連合への道―理論と人材育成の構想 [著]天児慧

[掲載]2010年9月5日

  • [評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史)

■地域統合へ 研究と実践橋渡し

 永らく世間の話題から遠ざかっていた「東アジア共同体」論。

 しかし昨年、首相となった鳩山由紀夫氏が「東アジア共同体」構想をぶちあげたことから、再び注目の的となった。しかし、瞬く間に鳩山内閣は瓦解(がかい)。すると、この議論もまた一気に下火となった。

 本書は、時の政権に左右されやすいこの話題を、じっくりと多角的に議論している。著者は中国研究のトップランナー。これまで近現代中国を描いた著作を数多く出版してきた。

 本書の特徴は、経済と安全保障の問題に還元されがちな東アジア共同体論を、歴史と思想を掘り下げながら位置づけなおそうとしている点だ。特に著者が注目するのは、ナショナリズムとアジア主義の問題。ナショナリズムは時に排外的な意識を焚(た)きつけ、人々を内向きにさせる。またかつての日本のアジア主義は「連帯」の思想が「支配」の原理へとすり替わり、アジア諸国を植民地化する思想的根拠となった。

 著者は、この顛末(てんまつ)を丁寧に追いつつ、排除を伴わない新時代のリージョナリズムを模索する。そして、ネーションへの愛着を保持しつつ、他者へと開かれる「アイデンティティの重層化」のあり方を探る。過去に遡行(そこう)しながら、未来へと前進しようとする姿勢に、アジア連合実現への熱い思いが込められている。

 議論は机上のものにとどまらない。著者は積極的にアジア地域統合への協働のメカニズムとネットワークの構築に動く。具体的な人材育成と交流から、アジア連合を一歩一歩進めていこうとするのだ。

 その時のキーワードは「調和」(サステナビリティ)、「関係」(ネットワーク)、「同舟(共同)意識」(アイデンティティ)。この三つを意識しながら協働を積み重ねることで「世界的な普遍性を持ちながらもアジア型の地域統合が生まれてくる」。

 首相がコロコロと代わり、国家の方向性が一定しない中、本書のような長期的な展望に立った議論は、ますます重要になっている。研究と実践を橋渡しするスケールの大きい一冊だ。

    ◇

 あまこ・さとし 47年生まれ。早稲田大学教授(中国政治・アジア現代史)。

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