(たいせつな本)星野博美:上 若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』

2009年01月18日

 my classics
 正義のない状況下で何を誇りに生きるか

 本を選ぶ時は直感で気になったものを買うのだが、その時読まずにしばらくしてから読むということがよくある。別に忙しくて読めないわけでも、買ったはいいが興味を失ったわけでもない。ただ、読むべき時が来たら読みたい、という勘を頼りにしているだけだ。
 去年の夏ぐらいだろうか。ふと本棚を見たら、戦国時代やキリシタン、島原といったテーマが増えていることに気づいた。きっとこれらを読む時が来たのだろう、と根拠もなく思い、一気に読み始めた。
 『クアトロ・ラガッツィ』は、イエズス会による日本布教の成果としてローマへ送られた天正少年使節団の物語。少年たちは大航海時代の世界をじかに見聞したが、帰国した時、日本は他の文明や宗教を排除する鎖国に向かっていた。
 彼らの悲劇は、日本の悲劇に他ならない。世界を体験した彼らを抹殺して日本は世界に背を向け、内側だけで完結する固定化した閉鎖社会を目指したのだから。日本がこの四百年近く、ほとんど変わっていないことに驚きを覚える。
 縁のあった本は、羅針盤のように次の本を指す。次に出会えたのは飯嶋和一の『出星前夜』(小学館)。これは江戸時代最大の民衆蜂起として知られる天草・島原の乱をテーマとした歴史小説。描かれているのは抵抗運動の末になぶり殺されていった一人一人の無名の人間の生きざまだ。
 正義が行われない絶望的な状況下、人は何を誇りに生きていくのか。もしそんな状況に置かれたら、どんな行動をとるだろう。自分の生き方を問われているような気さえしてくる。
 なぜこれらの本を欲していたのか、最近やっとわかってきた。弱肉強食の時代に戻りつつあることを実感し始めた今だからこそ、何に希望を見いだしたらよいのか、ヒントを探したくなったのだろう。
 暗い夜空にひっそりと輝く星。私にとって、大切な本とはそんな存在である。
 (写真家・作家)
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 星野さんは03年に刊行された単行本を愛読。現在は上下2巻の集英社文庫=写真=で読むことができる。

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