人間文庫(週刊朝日)

東京震災記 [著]田山花袋

2011年10月21日

■廃墟は自然のリズム 花袋の文明論

 フトンのおじさんは温泉ばかりか震災もノンフィクションしていた。関東大震災直後、一斥候として市街地に飛び出して行った記録である。
 花袋の家は当時郊外(郡)だった代々木。洋書が書籍流を起こし、2度目の揺れで屋根瓦が落下するなどしたが、筵の上でお茶を飲んだりする余裕はあった。それだけに目にした光景は衝撃的だった。九段の坂から見渡す一面の焼け野原、隅田川に飛び込むしかなかった浅草の惨状、日露戦争で死体には慣れていた花袋すら驚かせた被服廠の黒焦げの人間の山。ぶすぶすと燻る煙や焼けぼこり、酸鼻を極める死臭など、五感が捉えた描写も生々しい。
 花袋は、江戸の残滓が消滅、純なる東京が出現するかもしれないと希望にも似た景観論を書く一方で、こうも書く。またぞろ金紗の着物やダイヤの指輪が欲しくなりはしないか。が、それもまたよし、と。廃墟や廃都を好んだ花袋は、人間の心の中でも淫蕩や奢侈など絶えず「廃墟」が繰り返されている、人間の死も廃墟の一種であり、廃墟は自然のリズムだと文明論をぶち上げるのだ。最近、首都圏直下型地震の30年以内の発生確率が98%まで上がった。まだ見ぬ廃都に身を焼かれる──。

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