よみたい古典

香山リカさんと読む「夢判断」(上)

2011年11月06日

イラスト・金子真理

■「夢は願望充足」突き止めた

 『夢判断』という書名から、なにか性格占いに類する本を期待する読者もいたかもしれない。神奈川県の町田香子さん(55)は「小学校の時から自分の夢に興味があった。フロイトの本に巡りあったが、ただ一言、難解なのである。難しい文章が夢に出てきそう」。
 精神科医の香山リカさんも「雑誌に出てくる夢占いのようなものを期待していると完全に裏切られますね」と話す。つまずく要因は、フロイトの有名な性欲論そのものにもある。「外套(がいとう)はいうまでもなく、一性器具を意味している」など、帽子も杖もネクタイもペニスの象徴ととらえる。
 「早い話、すべて性器の象徴なのかと、げんなりしてくるんですね。フロイトのこうした姿勢は、『男性器中心主義』として、のちにフェミニズムの攻撃も受けました」と香山さんは話す。
 神奈川県の長谷川誠司さん(53)は「血液型や星座占いではあまりに単純で、自分の性格が分からず悩んでいた大学時代にむさぼるように読んだ」と手紙を寄せた。
 香山さんは夢判断の斬新さをこう指摘する。
 「夢は外部からやってくるメッセージという考え方は、古代からありました。それが夢占いという形で、現代にも生き残っている。フロイトはこうした、夢は『お告げ』説を否定した。『こんな夢を見れば結婚が近い』といった安易なストーリー化も否定しました。夢は願望充足であることを突き止めたのが『夢判断』の眼目です」
 試験に落ちる夢、空から墜落する夢を見る人は少なくない。しかしこれらも、フロイトによれば「夢は願望の充足である」。
 「ただし、その願望の満たし方がひねくれている。検閲など、いろんな操作が加わるので、自らの願望がそのままの形では夢には表れない」(香山さん)
 臨床医だったフロイトは、ヒステリー患者らの治療の中で、患者の夢内容に着目し始めた。しかし香山さんによると「精神分析自体が、現代の精神医学の中で旗色が悪い」という。「何年もかけて医師と患者が向き合ってする治療。ものすごくお金がかかる。また、今の精神科に通う人の8、9割が鬱(うつ)症状。複雑な精神分析より薬を、という流れになっている」
 光トポグラフィーやバイオマーカーで心の病を診断しようという時代、「精神分析は、精神医学の中でも文学的なもの、特殊なものとなりつつある」とも香山さんは指摘する。
 では、フロイトを今読む意味は何なのか。
    ◇
 フロイト/新潮文庫全2巻740、700円、日本教文社同1940、2140円。
    ◇
 『ガルガンチュアとパンタグリュエル物語』『君主論』『パンセ』『ハックルベリー・フィンの冒険』について、過去につまずいた体験や読後感想、読了するコツを教えてください。400字程度で住所、氏名、年齢、電話番号を明記、〒104・8011 朝日新聞文化くらし報道部「よみたい古典」係へ。ファクス(03・5541・8611)、メール(dokusho@asahi.com)でも。毎月、抽選で図書カードを10人に差し上げます。



関連記事

ページトップへ戻る