人間文庫(週刊朝日)

背後の足音 [著]ヘニング・マンケル [訳]柳沢由実子

2011年11月18日

■まるで今の日本人!14年前の警察小説

 地元の長老詩人が受賞した今年のノーベル文学賞。スウェーデン文学なら、こんな警察小説もいかがでしょう。シリーズ第七弾だが、本書の出来映えはまた格別。
 夏至祭の仮装ピクニックを楽しむ若者達を突然襲う銃口、娘が行方不明だと警察に訴える母親、自宅で射殺死体となって発見される独身刑事。これらのピースがまだはまらないうちに次の犠牲者が出る。
 スウェーデン社会の実相を伝える細部が特に興味深い。テレビと電話の契約を止め、パソコンだけ残す知的エリート、偽善的セリフでリストラに成功したと高嗤いする経営者、配達人を顔写真入りで紹介する郵便局の民営化ぶり。離婚歴があり、遠距離恋愛の恋人にも去られ、50を目前に高血圧と糖尿っけに苦しむ主人公ヴァランダー刑事は、理解に苦しむ事件の暴力性にこう思う。スウェーデンでは「外側の崩壊と内なる崩壊」が一緒に起きている、「情け容赦のない国になった」、若者は基盤を失い、不必要とされた人間は「ますます悲惨な環境で尊厳のない暮らしに」晒されている、と。原著は97年刊なのに、まるで今の日本。時代の空気に鋭敏な作家は、国境を超える“炭坑のカナリア”だなあと痛感する次第。

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