原発と経済論壇 村山正司が選ぶ本

2011年11月13日

政府の「東電に関する経営・財務調査委員会」は10月、3兆円のリストラが可能という報告書を野田佳彦首相(右)に提出した

■経営責任・リスク管理考える
 
 大事件が起こって「論」を立てようとするとき、単行本という媒体はつらい。新聞や雑誌より大量に書く必要があるのに、状況はめまぐるしく変わる。東京電力福島第一原発の事故からしばらくの間、論壇では過去の単行本の増補版や、複数の筆者による論文集が目立った。だがようやく、一人でまとめた著作が世に問われ始めている。
 ここでは経済学や経営学の研究者が原発事故を論じた本を取り上げたい。民間企業である東電に対し、政府はリストラを前提に8900億円の公的資金を投入することを決めた。この是非を考えるには、経済(営)学の視点が役に立つ。経営者・投資家の責任や企業のリスク管理を検討できるからだ。
 マクロ経済学が本業の齊藤誠・一橋大教授が『原発危機の経済学』を書いたのは、3月11日以降の原発危機が、資本蓄積が過剰気味となった日本経済の風景と相似形だったからという。リスクに目をつぶって設備投資を拡大する経営者と、有効な規律付けを怠る投資家(株主、社債保有者、融資銀行など)。原発という高いリスクのもとで高い収益を得ていた東電の投資家が損失を負担するのは当然であり、公的資金の投入は適切でないと主張する。

■発送電分離の道
 長い時間と膨大な費用がかかる事故処理のために、採算性のない核燃料再処理・高速増殖炉事業からは撤退し、原発(軽水炉)は収益源として残すというのが齊藤教授の提案だ。福島第一原発を後片付けして福島を再生させる事業は、不安定な東電には任せられないので国が責任を持つ。それでも東電に負担が残るなら、送電関係の設備を売って約5兆円をまかなう。民間の自律的な動きとしての発送電分離は、こんな道筋かもしれないと齊藤教授は予想する。
 電力会社のリスク管理が甘くなった理由に、原子力発電推進の国策や旧通商産業省の産業政策を見つめるのが竹森俊平・慶応義塾大教授(国際経済学)の『国策民営の罠(わな)』だ。そもそも日本は安全管理能力が低く、大ポカが多い。損害賠償額が1200億円を超えれば政府が電力会社に「必要な援助」をする原子力損害賠償法も、安全管理をさぼらせるモラルハザードを招き、事故の一因になったと竹森教授は考える。
 竹森教授は、東電を生かすでも殺すでもない今の仕組みを最悪とこきおろす。日本で一番不足しているのは電気で、積極的な投資が必要なのに、東電は日本で一番嫌われているというジレンマ。東電は資産を全部売って破綻(はたん)させ、賠償と原子力の負担から免れた新会社に電力事業をやらせるのが最善という。

■東電をどうする
 電力業界に詳しい橘川武郎(きっかわたけお)・一橋大教授(経営史)も『東京電力 失敗の本質』で現在の東電を「飼い殺し」と表現する。橘川教授は、原子力発電を民間電力会社から切り離し、国が責任をもって運営するか、国営化することを打ち出す。国策民営と地域独占で損なわれてきた電力会社の健全性は、対症療法では回復できないとみている。
 原子力発電が本格化する前、日本の電力会社は安くて安定した電気を送っていた。官民の間に緊張感があり、各電力会社に疑似的だが競争があったからというのが橘川教授の分析だ。電力会社はこの時代に戻り、競争力を取り戻すべきだという。
 東電の抜本的な事業計画は、来年3月までに立てることになっている。この3冊はそのころ再び役に立つかもしれない。経済産業大臣は「あらゆる可能性を排除しない」と語っている。

関連記事

ページトップへ戻る