よみたい古典

香山リカさんと読む「夢判断」(下) 

2011年11月13日

イラスト・金子真理

■治療の過程で無意識を発見

 フロイトの最大の功績は、「無意識」の発見だったと言われる。東京都の渡辺宏さん(85)は「夢の潜在的内容と無意識の欲望とを関係づけ、夢の核心的意義を見いだした」と手紙を寄せた。
 精神科医の香山リカさんも「無意識という発想自体は、フロイトの発明というわけではなく、たとえば仏教や、古代ギリシャの哲学にもありました。しかし、無意識、つまり通常の意識ではない心の領域を重視して、心のメカニズムを解明していこうという発想は、フロイトの独創」と話す。
 ただし現在では「無意識という言葉が独り歩きしている」とも語る。「ビジネス書や各種のコーチング術指南に、『自分の無意識に働きかける』といったような文脈で言及している。これなどはフロイトのモデルが歪曲(わいきょく)され、薄まった、いわば『超訳フロイト』」
 では、現代にフロイトを読む意味はどこにあるのか。
 「今、脳科学が発達したことによって、人間の心の問題など、早晩、科学的に解明されるといった雰囲気がありませんか。脳の神経の活動をつぶさに調べていけば、心のメカニズムも完全に解明できるといった予見です。でも、人間ってそんな単純なもんじゃないという直覚が、私にはある」
 「自分は自分の知り得ない、とんでもない願望をもっているという可能性は十分にあると思う。就職活動で、学生は自己分析シートなんていうものを書かせられますが、でも無意識レベルまでの自分を知ってしまったら、それは耐えられないことなのではないか」
 フロイトは、なぜそのような領域へと足を踏み入れたのか。香山さんと同じく、フロイトは作家でもあり、医師でもあった。
 「彼は臨床医でした。何よりも目の前の患者を治さなければならない。『知り得ないから仕方がない、知る必要がない』ではなく、知り得ないところまでメスを入れることで、病状をいくらかでも軽減しなければならなかった。そこに彼の有名な言葉ですが、『夢判断は、無意識的なものを知るための王道』という発見があった」
 フロイト、ニーチェ、マルクスは、しばしば「近代思想の三巨人」と称される。3人はそれぞれ、〈意識〉に、鋭い懐疑のまなざしを注いだ、というものだ。
 香山さんも「フロイトは、近代的な人間観への、ひとつのアンチテーゼを示した」とみる。
 「個人は唯一無二であり、自分で判断できる、理性的で自立的な主体だということが前提になり、近代社会は形成された。ところがフロイトは、人間には無意識という、本人さえ知り得ない領域があるということを、治療の過程で発見してしまったのです」
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 フロイト/新潮文庫全2巻740、700円、日本教文社同1940、2140円。
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