この人に聞きたい 本の話

ママトーンではなく、真面目に日本の教育を叱る 尾木直樹さん

2011年11月25日

おぎ・なおき 1947年生まれ。22年の教員生活を経て、教育評論家に転身。現在は、臨床教育研究所「虹」所長として教育問題の調査・研究活動に取り組みつつ、法政大学教授、早稲田大学大学院客員教授として教壇に立つ。バラエティ番組などに多く出演し、「尾木ママ」の愛称で人気に。近著に、『尾木ママの「凹まない」生き方論』など。

おネエキャラの「尾木ママ」としてバラエティ番組で大ブレイクし、街中だけではなく大学での授業でも携帯電話のカメラを向けられてしまうという尾木直樹さん。10月から刊行を始めた「未来への教育」シリーズでは少しお堅い本業の「教育評論家」として、日本の教育に喝を入れている尾木さんにお話を聞きました。


「ガリガリ」から「ハートマーク」

――テレビ出演も多い中、かなりのハイペースで出版されています。
 最近は読む時間が無くなってしまったんですが、僕は「書くのは赤川次郎くらい速い」と言われているんです(笑)。話すスピードと書くスピードはほとんど同じくらい。朝の6時から夜の12時まで書けば、2日で本が1冊書けてしまうこともあります。共著を入れて、もう200冊近くなっていますね。

――少し前の著書を見ると、「堅め」の本が多いですね。
 「堅め」というか、ガリガリに堅かったですよ。教育基本法改正で闘っていた頃は、「正しいことをそのまま言わなければいけない」と思い過ぎていましたよね。最近の本は、文字も大きめで文体も柔らかく、非常に読みやすくしています。句点「。」の代わりにハートマークがついているしね(笑)。

 ――大きく変わったのは「ホンマでっか!?TV」に出演されるようになってから?
 その通りです。今も間違ったことを言っているわけではないけれど、正しければいいのではなくて、伝わるためには「盛り付け」とでも「味付け」とでも言うのか、「。」のかわりにハートマークが必要なこともあるんですよ(笑)。そんなことは夢にも思わなかったし、60歳を越えてから気付いたわけですから、もうちょっと早く知りたかった。岩波新書で書いて、朝日新聞でちゃんとしたことを言うのが大事だと思っていました。

――番組ではテロップもピンク色で、最後にハートマークがついていますね。
 そういう演出もあるし、「さんまさんのバラエティ番組なんだ」と気楽にリラックスして見てもらっていますよね。バラエティを見るとき、メモを持ってかしこまっている人なんてあまりいないでしょ。ゲラゲラ笑ってリラックスしているとき、情報が脳にドンドン吸収されていくんですよ。ホントよ。僕はメディアリテラシーの本も出しているしBPO(放送倫理・番組向上機構)の委員もやっていたのに、盲点でした。

――テレビも「教養系バラエティ番組」が流行っています。
 全体として「知りたい」と多くの人が思うようになってきていますよね。それに、以前は情報があまりにもコントロールされていたんですよ。教育基本法改正の頃は、ちょっとまともなことを言うと、どんどん片隅に追いやられて、僕にとってあの頃は言論の自由なんかなかった。ここでは言えないけど、当時のことをまとめれば本が1冊書けるくらいのエピソードはあります。でも今は、ほとんど思ったまんま、好きなことを喋っています(笑)。


足場は教育現場に置きつつ…

――今は「尾木ママ」ブームの真っ最中ですね。

 僕はこのブームは今年の8月いっぱいで終わりだと思ってたのね。そしたらどんどん深入りしてきて、「これは年内いっぱい続いちゃうな」って覚悟は決めたんですけど。もう少し真面目に教育の仕事もしないとね。


――大学教授としてのお仕事も続けていくつもりですか?
 僕にとってこれは足場であり現場なんです。これだけ忙しくても、大学の授業が始まるとイキイキするんですよ。水を得た魚じゃないけども、やっぱりここがあってのテレビなんですね。教育現場といっても小中高大学とありますけど、とにかく子どもや学生と接しているのは好きだし、教えるのが好きなんですよ。

――でも今が尾木さんの力を一番発揮できるときですね。
 そうなの、新書で3冊4冊書いても伝わらなかったことが、10秒で伝わることもあるの(笑)。講演でみなさんが「うんうん」とうなずいてちゃんと理解してくれているのを実感しています。講演会で昔の僕のことを知っているかと聞いても、知っているのは1000人いて50人です。それまでもNHKの番組や報道番組、討論番組、新聞にもいっぱい出て、はいずり回って一生懸命訴えていたのに、そんな僕を知っていたのはたった5%なの。それが、今では1000人規模の講演会も2時間前には満席になって、倍率も4~5倍なんですよ。「みなさん、今までどこに隠れていたの?」って言いたくなりますよね(笑)。
 いま、僕がテレビに出て、認知度が上がってきたこの段階で、また「堅い」こともやっていきたいんです。


日本はもう韓国に追いつけない?

――新刊は日本の教育問題を訴える少し真面目な本ですね。
 『尾木ママの教育をもっと知る本』は、旬の話題を切り取って、グローバルな視点で日本の教育を知ってもらえるよう、2・3ヶ月おきくらいのペースで6冊連続で出す予定です。中身は最近の「ママトーン」の本ではないのであまり売れないかもしれないけど(笑)、これはぜひ読んで欲しい本です。写真の点数を多くして雑誌風にするなど、読みやすいように工夫はしているんですよ。
 日本の教育に関して言うと、日本は韓国にOECD(経済協力開発機構)のPISA(学習到達度)調査でも抜かれちゃって、IT教育に関しても日本は4位で韓国はダントツの1位。もう追いつけないんですよ。例えば、オランダなんて4歳から小学生なんですよ。韓国も5歳から小学生。民主党政権になってものんきに「全国学力テスト」だなんておかしなことやって、これだけで学力が伸びるんだったら世界中がやっているはずでしょ。どこもやってない。じゃあ世界はどうなっているかとちょっと考えれば済むことなの。何で他の国がやっていないかといったら、こんなことは終わってることだからですよ。もう絶望感ですよね。だからあの時、「これじゃあ日本は沈没する」と思っていたけど、本当にそうなっちゃった。就職だって、グローバルに展開している企業は日本人にだけ頼るということができなくなっている。深刻ですよ。

――この本のメッセージを一番伝えたいターゲットは?
 まずは、お父さんお母さんに伝えたいです。親が変わってくれれば子どもたちも幸せになれるんです。色々なデータがあるんですけど、国連や国際社会でも「日本はどうなってるんだ?」って集中的に討議されたりしているくらい日本の子どもは不幸なんですよ。虐待だってちょっと増えすぎている。ひもじい思いをして餓死した子どもを解剖したら、胃の中からオムツが出てきたなんて、ありえないでしょそんなこと。
 次に、学校などの教育関係者やメディアに、「今やっていることは教育じゃないよ」と言いたいです。今やっているのは「調教」と「注入」なんです。百ます計算とか脳トレが流行りましたよね。トレーニングとしてやるのはいいんですけど、あれだけで頭が良くなるなんてことをメディアも文科省も持ち上げていて、僕には「こんなことやったら日本はダメになる、文科省まで本気になっているなんて信じられない」という危機感しかありませんでした。世界の教育は、「教え教育」から、子どもたちが学ぶのをどうサポートできるかという「学び教育」に方向転換しちゃってるの。日本の教育は本当にひどい。だからメディアも含めて、みなさんにこういうことを知ってほしいんです。

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