人間文庫(週刊朝日)

交遊録 [著]吉田健一

2011年12月02日

■ラディカルな人間論 吉田健一のオーラを見る目

 先週の本に、牧野伸顕が幼女の白洲正子に“うちにも文学の天才少年がいるんだよ”と相好を崩す場面がある。その天才がこの吉田健一。吉田は幼少時、母方の祖父の家で養育された。その祖父・牧野から書き起こす、忘れえぬ男達のアルバムである。
 ケンブリッジ大学の師、帰国直後「教養がある若い日本人」の清新さに息をのんだ10歳年上の河上徹太郎、20代で出会った同世代の「眉目秀麗な青年」中村光夫、他に石川淳やドナルド・キイン、「若い人達」などを、冒頭の祖父と終章の父(吉田茂)の肉親で挟む。印象的なのは伝記(功績)の要素を排し、その人の光輝を描いていることだ。今風に言えばオーラ。吉田は書く。人間と人間の書いたものはどちらが大事か。書いたものは長持ちする。「それならばなお更人間の方が大事である」。本書にはこの手のラディカルな本質論が多々。本書が人物論ではなく、優れた精神の表出を描いた人間論である所以だ。最高の誉め言葉は「ありのまま」「素朴の状態」。吉田の読点のない文は肺活量が大きいというより、悠然たる背泳ぎに見える。遠泳12回、人間の中の人間を抽出したこの3年後の1977年、吉田は65歳で没した。

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