よみたい古典

荻野アンナさんと読む「ガルガンチュアとパンタグリュエル」(上)

2011年12月11日

イラスト・金子真理

■笑えるものなら何でもあり

 「涙よりも笑いごとを描くにしかざらむ、/笑うはこれ人間の本性なればなりけり。/楽しく生き給え」
 こんな読者への呼びかけで始まる、16世紀半ばフランス・ルネサンス期の最大の物語。巨人族ガルガンチュアとパンタグリュエルの、壮大な冒険ホラ話だ。
 大食いで大酒飲みで冗舌の巨人は、ホラ話のサイズも違う。壮絶な糞尿譚(ふんにょうたん)が有名だ。第1巻13章で「もっとも素敵(すてき)な尻の拭き方」を1章まるまるかけて真剣に書き連ねる。真面目な読者はここで早くも脱落するかもしれない。
 新潟県の読者・早川和雄さん(56)は「お尻ふきに最高、最適なもののくだりに腹を抱えた。中世にこんなアホらしいことをラブレーは真剣に考えていた。昔やっていたフランス語をやめたことを後悔している」と感想を寄せた。
 作家の荻野アンナさんは慶応大学教授でもあり、ラブレーが専門だ。「これは近代小説以前の物語ですから、『小説じゃない』と思って読まないと面くらいます。クレヨンしんちゃんの悪ふざけ、あほなアニメだ、ぐらいに思って読むのがコツですね」と話す。
 広島県の内悧(うちさとし)さん(67)は「主人公が猛烈な排泄(はいせつ)をするなどの大げさな描写は、素直に受け入れ大笑いしたい。この笑いこそ、今の日本人から失われたもの」とラブレーの駄法螺(だぼら)に無事感応できた模様。群馬県の原由美子さん(44)からも「笑えるものなら、高度なネタからオヤジギャグ、重度の下ネタまで差別なく列挙する」という感想が届いた。ちなみに原さん、試みに、自分の飼いネコの癖をずらずら並べていったところ、「列挙の楽しさに見事にはまった」という。なるほど。
 「素晴らしい読者ですねえ。ものの見方が複眼的」とたたえる荻野さんは、「ラブレーの生きた16世紀ルネサンス期は、まじめなことをおかしく書く必要があった時代」だと考えている。3・11後の日本にも、そうしたラブレー的笑いの読み直しが必要だとも。
 なぜ笑いを強調しなければならなかったかは次週に譲るとして、実は荻野さんこそ「高度なネタからオヤジギャグまで」つい口にしてしまう作家だ。かつて芥川賞受賞の感想を求められ、「あ、しょう」とやり周囲を凍らせた。最近も「『鼻』学について」というれっきとした紀要論文で「ハナはだ失礼」と、脱力駄洒落(じゃれ)で結んでいる。懲りてない。
 「馬耳東風。私の右耳と左耳の間には、深くて暗い穴があるんです」
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 ラブレー/ちくま文庫1〜4巻まで発行・1365〜1890円、岩波文庫全5巻は古書店か図書館で
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