よみたい古典

斎藤美奈子さんと読む「夜明け前」(上)

2012年01月08日

イラスト・金子真理

■傑作長編だがテンポ遅い?

 「木曽路はすべて山の中である」
 有名な書き出しで始まる島崎藤村の傑作だが、文庫で4分冊の長さと、叙述のスローさに面食らう読者が多かった。福岡県の市原伴子さん(61)は「美しい風景描写から始まる有名な本。期待にワクワクして手にしたが、遅々として進まぬストーリー」に難渋し、大阪府の松本絢子さん(26)も「(同じ作者の)『破戒』で見られたドラマチックな描写がほとんどないのが進まない一因」と感想を書いた。
 文芸評論家の斎藤美奈子さんは「紙面で紹介しなければならない本だけで月に30冊以上読む」というスーパー読書家。プロならでは、の裏技を教えてもらった。
 「今の感覚ではテンポが遅く感じる古典は、ショートカットやジャンプもありです。私は『本を作る』と称しているんですが、まずは駆け足でざっと全ページを繰ってしまう。気になったところに線を引いたり折り目をつける。面白そうなところから読み始め、登場人物や筋が分からなくなったら、前に戻ってじっくり読み直す。本はもっと融通無碍(むげ)に読んでOKなんです」
 『夜明け前』については、「第二部の下巻から読み始め、ラストを読んでから最初に戻ると面白い」という大技も披露してくれた。「大部の古典は、必ず全巻まとめ買いしてください」
 木曽路・馬籠(まごめ)宿に生まれた庄屋の跡取り息子青山半蔵が主人公。時は幕末。ペリーの米国艦隊による砲艦外交で、江戸が震え上がっていた時世だ。木曽の山中でさえ騒然とする世情にあり、半蔵は国学に目覚め、リーダーとして村民のために奔走する。「黒船に、異様にあたたかい冬、襲い来る大地震、主人公の娘は自殺を図り、本人もやがて発狂。この崩壊感は、J・G・バラードに似ている。そう、SFである」と千葉県の宮野由梨香さん(50)は書いた。
 神奈川県の奥泉照代さん(71)は「仲間と五街道完歩を敢行し始めたのが50代。木曽路をよりおいしく味わうには必読と思って一気読みした」という。
 これには斎藤さんも「旅と本はワンセット」と賛成だ。自身も馬籠に遊びに行き、理解が格段に深まった経験がある。
 「木曽路の描写が身をもって分かり、本が染み込んでくる。長いものを読むにはモチベーションが必要。旅に行ったら、印象が薄れないうちに、そこにまつわる長い本を読んじゃえばいいんです」
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 島崎藤村/岩波文庫全4巻・各714円、新潮文庫全4巻・500〜580円
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