よみたい古典

仲正昌樹さんと読む「君主論」(上)

2012年01月22日

イラスト・金子真理

■安定を模索した冷静な眼力

 小国が分立する16世紀イタリアに生き、君主たるもの権力をいかに維持するかを説いたマキャベリの主要著作。最近も超訳・君主論が相次いで出て、ビジネス書として人気になっている。
 東京都の村本慎一さん(76)は「企業経営に携わることになり本書への見方が一変した。君主の統治の要諦(ようてい)は、そのまま多くの組織運営に通じる」、埼玉県の長谷川和雄さん(77)も「人間と組織に関するきわめて現代的な見解がある」と感想を寄せた。
 かつては「マキャベリズム=目的のためには手段を選ばない」といった通俗理解があって、イメージはよくなかった。金沢大学教授(政治思想史)の仲正昌樹さんは「すでに権力をもった人が、その権力拡張のために何をしてもいいのだなどと書いているのではない。『君主論』の眼目は、戦闘状態からいかに平和で安定した状態を作り出すかということ。いつ吸収合併されるか分からない組織で、どう振る舞えばいいのか。あらゆる予断を排して冷静に観察するのがマキャベリスト」と話す。
 東京都の荒井駿さん(26)は「地理的に領土を広げることが難しいこの世界で役立つか」と書いた。確かに現代は国家間の領土拡張戦争は考えにくくなったが、仲正さんの意見は少し違う。
 「小国が分立していた16世紀イタリアで、最も重要なのは国家が安定していること。国家とは英語(State)、イタリア語(Stato)ともに『状態』を意味する。今、国家は安定した状態だろうか。少なくともヨーロッパは歴史的にずっと安定していない。財政危機のギリシャのように、国家としての主権を一部制限するような事態になっている。日本人は国家や組織が永続することを疑わないが、マキャベリは状態が流動化するとどうなるか、人はどうふるまうものなのかを書いたんです」
 君主の人格は、軍隊はどうあるべきか。巧みな比喩で説く。聖書では、少年ダビデが巨人ゴリアテに、自分の粗末な武器で勝利する。それは、結局他人の軍備は役に立たないからだ、などと。
 福井県の竹原利栄さん(73)はマキャベリの「援軍が勝利すると、招き入れた者はその軍隊のとりことなる」という考え方に、日本の現在の状況に引きつけて注目する。
 仲正さんも「仮に日本が戦争状態に入った時、米軍なしで単独で対処できると思っている人はいないだろう。福島原発事故の処理にも、想像以上に米国の危機管理に依存していたことが分かってきた」と話す。日本だけの話でもない。「西側全体がそう。英独仏含め今や1国で危機管理ができる国はない。西側のほとんどすべての国にとって、米軍が『援軍』になってしまっている」
 ただし『君主論』の現代的意味はリーダー論や国際パワーバランス論にあるのではない。今話題の「共通善」を、最もラジカルに考えた近代哲学の祖だった、という話を後編に。
    ◇
 マキャベリ/講談社学術文庫・798円、中公文庫・820円、岩波文庫・840円

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