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細胞が自分を食べる オートファジーの謎 [著]水島昇

[文]谷本束  [掲載]2012年02月03日

表紙画像 著者:水島昇  出版社:PHP研究所 価格:¥ 840

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■体内にも掃除屋がいる!

 生命科学の分野で「オートファジー」という機能が注目されている。なんだか昔流行った家電みたいだが、そうではない。「auto(自分)」と「phagy(食べる)」を組み合わせた言葉で、細胞が自分をバクバク食っちゃうという奇妙な働きだという。近年、これがとんでもなく重要であることがわかってきたという。その最新研究を紹介した初の一般書である。
 “食う”というのは、生成に失敗したタンパク質や、古くなって品質が低下した細胞内の小器官などの“ゴミ”をアミノ酸に分解することだ。隔離膜という捕獲網のようなものが突如現れて獲物をのみこむ。本当にパックマンみたいにパクッと“食って”しまうのだ。
 で、これがどういうことかというと、分解したアミノ酸は再びタンパク質の原料になる。ヒトの体内で1日に生成されるタンパク質の、実に3分の2がオートファジーによるリサイクル品、という。
 それだけではない、飢餓状態になればオートファジーでどんどんタンパク質を作って飢えをしのぐ。さらに病原体を捕食する免疫機能まである。最も驚くのは、発生でもなんらかの重要な役割があることだ。マウスの受精卵でオートファジーが起こらないようにすると、生まれる前になぜか死んでしまう。
 細胞を掃除する、というごく単純なことが複雑な生命現象のあらゆる面で大きなカギとなっている、そのことが不思議で仕方がない。
 科学の中で生命の謎というテーマは特別だ。自分自身の存在の秘密が今、現在進行形で明かされつつある、そこに自分も立ち会っている(本を通してだが)というぞくぞくするような感覚が、研究者たちの熱気と興奮に同化していく。
 そういえば、夫婦が離婚の危機にある場合、きちんと家の掃除を続けるとかなり離婚を回避できるという話を読んだことがある。掃除って大事なんだなあ。って、日常レベルに矮小化するのもなんだが、ミクロでもマクロでも、生きることがいつも秩序というものに大きく左右されているのが面白い。

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