コミック

闇の国々 [作]B・ペータース[画]F・スクイテン

2012年03月11日

■精緻な異世界が招く抽象性

 近年、翻訳作品の出版が盛んになり、海外の傑作に触れる機会が多くなった。わざわざ日本で出す以上、どれも選(え)りすぐった作品ばかりなのだが、その中でも圧巻というべき読みごたえの重量級の1冊が登場した。フランス語圏で活躍するコンビが描く、異世界を舞台にした連作長編SFだ。本書には、シリーズの中から代表的な三つのエピソードが収録されている。
 我々の世界とどこか似ているようで、まったく異なるこの世界。描かれるのは、増殖し拡大する謎の立方体にのみ込まれていく都市の物語や、想像を絶するほど巨大な塔の中を旅する男の記録、なぜか重力に反して傾いて立ってしまう少女の謎など、壮大で不思議な物語ばかり。
 鮮明すぎる夢のように精緻(せいち)に描かれたイメージの数々は、ヨーロッパの美術や建築、文学などの記憶を呼び覚ましながら、アレゴリー(寓意〈ぐうい〉)の巨大な森に我々を引きずり込む。描写が具体的であればあるほど、逆にさまざまな意味に読みかえられる抽象性を帯び、我々の想像力を刺激するのだ。この表現の奥行きが本作の大きな魅力だ。
 技法的にも大胆な挑戦が見られ、それが大きなスケール感を生んでいる。じっくり時間をかけて作り込まれた本を読む幸福感が味わえる1冊だ。
    ◇
 小学館集英社プロダクション・4200円

闇の国々 (ShoPro Books)

著者:ブノワ・ペータース、フランソワ・スクイテン、古永真一、原正人
出版社:小学館集英社プロダクション

表紙画像

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