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混迷続くシリア 高岡豊さんが選ぶ本

2012年09月30日

■中国とどう向き合うべきか

 昨年3月以来のシリア情勢の混乱について、日本でも様々な報道・解説がされている。しかし、事態を善悪二元論的・勧善懲悪的な物語とする「わかりやすい」報道・解説に触れることにより、「よくわからない」との感触が増幅されているとさえ感じられる。とはいえ、数百年、数千年単位でさかのぼってシリアを「理解する」努力は、現在の情勢を語る上で過大であり、不要ですらある。むしろ、「なぜアサド政権は倒れないのか(=アサド政権の構成)」「なぜ反体制派や“国際社会”は無力か(=反体制諸派の実態、シリアを取り巻く国際環境)」に絞ってその理由を考えることの方が必要であろう。
 現代シリアの政治・社会情勢については専門書が主流で、「手軽な」書籍をみつけるのは容易ではない。そうした中、パトリック・シールの『アサド』は、現大統領バッシャール・アサドの父で、先代大統領のハーフィズ・アサドの伝記として、シリア・アラブ共和国、そしてアサド政権がどのように形成されたかを概観する上で便利である。特に、ハーフィズ・アサドの生い立ちや政権掌握・運営の過程の描写は、「アサド政権は少数宗派による宗派支配」との単純な議論を再考する契機となろう。

■強固な政治構造

 末近浩太『現代シリアの国家変容とイスラーム』は、在外反体制派の主力のムスリム同胞団を主題としている。同書は、シリア・アラブ共和国が実態を伴う政体として強固になってゆくにつれ、ムスリム同胞団の思想と実践もそれに沿って発展していった過程を詳述する。シリア・アラブ共和国は、第1次世界大戦後に列強や近隣諸国が歴史的シリアを分割・再編し、1946年に独立した国である。同書が扱うムスリム同胞団の思想と実践・アサド政権との対決の過程は、現在の反体制派がなぜ一本化しないのかを知る一助となる。
 なぜアサド政権は倒れないのか、という問いに答えるには、アサド政権がシリアの政治・社会勢力を巧みに掌握して強固な政治構造を作り上げ、それを隣国のレバノンの政治構造と不可分に結びつけたという事実が重要だ。なぜなら、現時点では反体制派も国際社会も、アサド政権に代わる機構を作ることも、アサド政権が東地中海地域の国際関係・安全保障で果たしていた機能を代替する構想もできていないからだ。青山弘之・末近浩太『現代シリア・レバノンの政治構造』(岩波書店・品切れ)は、05~08年のシリア・レバノン情勢を題材に上記の事実を解説している。また、「自由・民主化」の美辞麗句の裏に、シリアの内政・外交を自らに従属させたいという本音を隠した諸外国の対応は、実は同書が扱った事例の焼き直しに過ぎないことも如実に示されている。

■報道機関の役割

 現在の情勢の混迷には、様々な情報伝達・報道媒体が大きな役割を果たした。国枝昌樹の『シリア』は、情勢を時事解説的に取り扱う中で、シリア国外の諸報道機関が、「悲劇」を捏造(ねつぞう)する場面にも切り込んでいる。同書は新書判として、ここで挙げた書籍の中では親しみやすいものである。
 様々な事情が錯綜(さくそう)し、どのような解説にも疑問がつきまとうシリア情勢であるが、「手軽にわかりやすく」という発想から脱することが、このような疑問を「手軽にわかりやすく」解消する近道ではないだろうか。

◇たかおか・ゆたか 中東調査会研究員(シリア研究) 75年生まれ。著書『現代シリアの部族と政治・社会』(三元社)など。

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