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間抜けの構造 [著]ビートたけし

2013年01月20日

■たけし流、正統な日本文化論

 「間」という不思議な感覚を、「たけし調」そのままの語りで解説した本。「間が抜けてる」から「間抜け」。「間が悪い」「間に合う」「茶の間」など、「間」ということばは日本人の生活のありとあらゆるところに潜んでいるが、意味を問われると正確に説明できる人はほとんどいない。
 本書でも「間」の意味はずばりとは書かれていない。そのかわりに著者は漫才や落語、テレビ番組、映画の撮り方から日常会話まで、あらゆる方面から解読を試みている。紹介されるさまざまな小咄(こばなし)やエピソードだけでも腰が抜けるほど面白く、一気に読める。そして最後は、人生哲学に行き着く。「我々の人生というのは、生きて死ぬまでの“間”でしかない」と。
 「間」のまわりをぐるぐると回るような本書。「部分部分は面白いけど全体的には何が言いたいのかよくわからない」という書評がネットにあったが、そういう隔靴掻痒(かっかそうよう)感があるからだろう。しかし通読して皮膚感覚的に見えてくるのは、われわれ日本社会の空間には見えない「間」が充満しているということだ。簡素な茶室は一見何もないように見えるが、実は「間」で満たされている。英語のスペースやタイムやインターバルと異なり、目には見えないがそこに実は存在していて宇宙を満たしている暗黒物質(ダークマター)のようなものだ。見えないだけに、いったん満たされると取り除くのは非常に難しい。だから日本人が熱心に「間」を作りあげると、それは見えない空気の圧力にもなって社会を息苦しくする。「間」がイノベーションを妨げている、と著者は指摘するのだ。
 軽妙な語り口調の本書だが、山本七平『「空気」の研究』にもつながる正統的な日本文化論だ。「間」の美しい文化を継承しながら、同時に空気の圧力を乗り越えて日本は前に進むことができるだろうか?
    ◇
新潮新書・714円=14刷25万部

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