わたしとSF

松崎有理(SF作家) 理系女子SF作家のつくりかた

2013年02月20日

このコラムのために松崎有理さんが作ってくれた画像

 いまにして思えば、操作されていたのかもしない。
 いや、宇宙人とか超能力者に、ではない。両親だ。
 放任主義のようでさりげなく教育熱心なひとたちだった。
 子ども時代に買い与えられた本は『朝日少年少女理科年鑑』、図鑑多数、学研まんがひみつシリーズ。親公認の定期購読雑誌は学研『科学』。このラインナップ、どうみても巧妙に科学への興味を誘導していたとしか思えない。
 また、小遣いはさして多くなかったが、書籍代だけは別枠で無制限にもらえた。もともと父が読書家で、自宅には巨大な書棚があって本がたくさんつまっていたのだけれど、さらに書店に行ってじぶんですきな本を買うことができた。
 そしてだいじなこと。父の蔵書のなかにはSFがたくさんあった。ノンフィクションから純文学まではばひろく読むひとだったがなぜかSFの割合は群を抜いていた。書棚のまえをさまよう娘がSFを手にとるのも時間の問題である。科学への興味とSFへの興味はすくなくともわたしのなかではいっしょに成長していった。たぶん、敬愛するアシモフがエッセーで「科学者になりたいならSFをよめ」(大意)といっていた影響だろう。
 こうしてわたしは理学部に進学する。
 では、以上までのまとめ:

理系女子のつくりかた(実験プロトコルふう)
#材料 女児ひとり
#所要時間 18年
1、4歳~ 文字がよめるようになったらとにかく大量の本をあたえる。さいしょははばひろく、知識への欲求を植えつけるために。
2、7歳~ 本好きになったと判断したら、じょじょにあたえる本の内容に傾向をつくる。たとえば子どもむけ理科年鑑類、学習まんが、各種図鑑類などを推奨。平易な科学雑誌を定期購読させるのも効果的。なおこのさい「買ってあげたあの本、よんだの」などと催促がましくいわないこと。あくまで放任をよそおう。
3、10歳~ 科学への基本的関心が育ったようなら、目につくところにSFを置いておく。クラーク、アシモフ、小松左京などハード系がのぞましい。
4、13歳~ じぶんで本をえらびたくなる年ごろ。書籍代はほしがるだけあたえる。案ずるなかれ、買ってくる本は科学ノンフィクションとSF小説にかたよるはずである。
5、こうして高校卒業まであまり干渉せずみまもる。すると進路はかならず理科系をえらぶ。
#成功のためのポイント とにかくよけいな口を出さないこと。いっぱんに子どもは、すすめられたものはけっしてやりたがらない。本人がじぶんでおもしろいものを発見した、と思うようにこっそり誘導するのがよい。

 しかし両親、作家にしようとまでは思っていなかっただろうなあ。さすがに作家は「つくる」ものではなく「なる」ものらしい。
 じつはわたし自身、作家になろうだなんていちども考えたことはなかった。よむことはそれはそれはだいすきだったけれど、創作への関心はまったくなく、高校でも大学でも文芸系のサークルには足を踏み入れようともしなかった。小説を書くという行為は別世界のひとがすることだった。とくにSF小説の執筆は、とてもむずかしい、クラークやアシモフのような一部の特別なひとだけができる特殊技能だとかんがえていた。
 そんなじぶんがなぜSFの賞をとってSF作家として仕事をしているのか。いまだによくわからない。これはきっと、デビュー版元の担当編集者がよくいう「めぐりあわせ」というやつなのだろう。
 ともあれ。だいすきなSFの世界のはじっこに加えていただけてとてもうれしく思っています。これからも読者のみなさまにたのしんでいただける作品をたくさん書いていきます。よろしくおねがいいたします。
    ◇
 まつざき・ゆうり 1972年茨城県生まれ。東北大学理学部卒。医学系研究所勤務をへて現在はソフトウエア会社でグラフィックデザインを担当。2010年、「あがり」で第一回創元SF短編賞を受賞しデビュー。

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