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綾野剛さん(俳優)と読む『掏摸』

[掲載]2013年02月17日

俳優 82年生まれ。近刊に、3年に及ぶインタビューをまとめた『綾野剛 2009▲2013▲』(幻冬舎)。
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俳優 82年生まれ。近刊に、3年に及ぶインタビューをまとめた『綾野剛 2009▲2013▲』(幻冬舎)。 綾野剛さん=郭允撮影

表紙画像 著者:中村文則  出版社:河出書房新社 価格:¥ 1,404

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■決定的な正解がここにある

『掏摸』 [著]中村文則 (河出書房新社・1365円)

 「昨日、私は拳銃を拾った」という文で始まる、中村文則さんのデビュー作『銃』を読んだとき、風が吹いた、と感じました。すごかった。自分の体に吹き付けたのか、木々の葉が揺れるのが目に見えたのか、探ってみたくなって、一気に読みました。
 中村さんの小説を読むようになったのは、今回僕の本のインタビューを担当してくれたライターさんが、僕の話を聞いて、この小説が合うのでは、と『銃』を送ってくれたことがきっかけです。どれか1冊を選ぶのは難しいのですが、初めての人に勧めるなら『掏摸(スリ)』がいいと思いました。
 主人公の「僕」は、優秀なスリです。完璧に「仕事」をしていますが、木崎という男と出会ってから、闇の中に巻き込まれていく。人目に付かない場所で、圧倒的な暴力にさらされ、死にたくない、と思う。そのとき、ズボンのポケットに500円硬貨が入っていることに気づきます。遠くの人影へ向けて主人公はコインを投げる。たまたまポケットにお金が入っていたのではなく、無意識のうちにあの男からすっていたんだと僕は思う。自分がこのあと死ぬかもしれないという状況で、最後にその職業に助けられる。本能で感じたことを体が自然に表現する。忘れられない場面です。
 暴力や性の描写が激しいのは、中村さんが、見たくないものから目を背けたりはしないから。人間を描ききっていると思います。『掏摸』の主人公は『王国』という別の作品にも登場します。二つの作品の世界は重なっているけれど、時間軸がどこで重なっているのかはわからない。余白が残されているのが面白い。しかも、どちらから読んでもいい。
 最近は本を送っていただくのですが、自分でも買うのでだいたい2冊ずつあります。ハードカバーで買い、文庫で少し表現が変わっていると聞いてまた買ってしまう。読み終えた後も、家に帰ってふと『掏摸』が目に入り、「これが映像になったら」「どのような表現があるだろうか」と想像する時間はとても豊かです。中村さんの意思とは違うかもしれませんが、役者をやっているゆえ、そんな想像をしてしまう。『掏摸』の主人公、演じてみたいですね。
 芝居には正解がない。どう演じたらいいのか、いつも考えています。しかし、中村さんの小説にはどれも決定的な正解を提示するすごみがある。『悪と仮面のルール』も『遮光』も、もちろん『掏摸』や『銃』も、主人公はすべて同一人物だと思いながら、僕は読んでいます。(構成・中村真理子)

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