著者に会いたい

吉田知子選集1 脳天壊了 吉田知子さん

2013年02月17日

吉田知子さん

■日常の中に立ち現れる異界

 小さな箱に入るほど小柄な夫がいたり、日本がえたいの知れない戦争に巻きこまれたり……。日常生活のなかに異界が不意に立ち現れる、恐怖とユーモアのいりまじった世界を描かせたら、吉田知子さんの右に出る作家は今いないだろう。
 1970年に「無明長夜(むみょうちょうや)」で芥川賞を受けて以来、著作は約40冊。しかし03年の長編『日本難民』以降、新刊がなかっただけに、全3巻の選集刊行は朗報だ。第1巻には、初期の「脳天壊了(のうてんふぁいら)」、川端康成文学賞の「お供え」、単行本未収録の「常寒山(とこさぶやま)」など、短編7作をおさめる。
 「お供え」は家の前に花を供えられたりして、神様のように祭りあげられる女性の物語。作家の小川洋子さんら熱烈なファンがいる。
 「実は家の隣にアパートが建つとき、何か騒がしいなと室内から見たら地鎮祭でした。大勢の人が私の方を見て熱心に拝んでいたのです」
 52年連れ添った作家の吉良任市(じんいち)さんに先立たれ、静岡県浜松市で母親を介護しながら暮らしている。
 「わが家は昔から仏教なんですけど、夫が亡くなったとき、適当なお墓が見つからず、神道に変えたんです。でも夫は仏教だと思いこんでいるらしく、初盆のときは明らかに家に帰ってきた気配がありました」
 作品世界さながらの人である。
 昨年、「群像」に短編「拝む人」を発表した。「あなたを拝ませてください」と頼まれてばかりいる女性の話だ。「すばる」に発表する予定の短編では死者との同居生活が描かれる。復活のきざし、と信じたい。
 「文学はやっぱり短編だと思います。短ければ短いほど書くのは難しい。今の小説はどれも長いですね」
    ◇
 景文館書店・1575円

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