佐野史郎さん(俳優)と読む『オラン・ペンデクの復讐』

2013年04月14日

佐野史郎(さの・しろう)さん 55年生まれ。小学4年で乱歩『少年探偵団』に遭遇。近刊「怪獣文芸」執筆者の一人。=麻生健撮影

■幼時の「わくわく」思い出す

 香山滋は、戦後、「宝石」の第1回の懸賞小説に当選した新人作家の一人で、江戸川乱歩が評価していました。「オラン・ペンデクの復讐(ふくしゅう)」は、その時の作品です。書店の教養文庫の棚に並んでいたのがずっと気になってはいたんですが、読んだのは20代半ばになってから。これはすごい、と子どもみたいに引き込まれました。スマトラの未開の地で新種の人類「オラン・ペンデク(小さな人)」を発見した博士の学会発表から始まるんですが、理科系の探偵小説の高揚感がのっけから全開で、理科実験室とか博物館に足を踏み入れた小学生の時のわくわく感が、よみがえってくるようでした。
 怪奇幻想文学や怪獣映画がもともと好きでした。秘境探検ものとかね。子どものころ、水を入れたビール瓶を背負って、突っ込んだゴムホースから口で空気を入れてボコボコ音をさせ、林の中を海の底に見立ててさまよう遊びなんかしていました。香山さんの作品世界は、そんな少年の心を持ち続けている。科学的知識に裏付けられながらもロマンや幻想に満ち、しかも妙にリアルな肌触りや質感がある。
 映画「ゴジラ」第1作の原作者でもある。「モスラ」は中村真一郎、堀田善衛、福永武彦の3人が原作者ですが、多分に香山さんの世界観を踏襲していると思います。「密林の小美人」なんてね。怪獣映画には「宝石」周辺の探偵小説作家が少なからずかかわっていて、映画と探偵小説が密接だと知ったのは1980年代半ばでした。僕の映画デビュー作「夢みるように眠りたい」(86年)の林海象監督や、ドラマでお世話になったTBSのディレクターたちなど、映像の世界に「香山滋が好き」という人が当時周りにいた。呼び合ったのですかね? 女性では「好きだ」という人にあまり会ったことないですけど。
 ライフワークとして自分でシナリオを構成して小泉八雲の朗読を続けているのですが、それも「怪奇幻想」好きの延長です。大人になってからの自分が幼少期の感覚と一気につながれる、風穴のような一作が「オラン・ペンデク」ですね。迷ってもここに戻ればいい、という。時空を超えた救いがここにはあると思えるんですよ。
 最近、ドラマ「ビブリア古書堂の事件手帖(てちょう)」で乱歩ファンの古書店主を演じたばかりなので、乱歩が見いだした香山滋のことを思い返していたのかもしれません。香山滋の作品を演じるのが夢です。いや、出演しなくてもいい、何かの形でかかわりたい。読んでいると、次々に映像が浮かんでくるんですよ。(現代教養文庫・絶版)
(構成・大上朝美)

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