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日本国憲法

2013年07月14日

■改正論議の中、100万部突破

 本書は1982年に刊行され、本年ついに100万部に達したロングセラーである。憲法改正論議が盛りあがる今年、帯文は「あなたは読んだことがありますか」から「読んでから考えませんか?」に替わった。
 82年という年は今といくつか共通点を持っている。日本の教科書が中国侵略を「進出」と書き換えたと報じられ、日中間の緊張が高まった。「戦後政治の総決算」を掲げ、憲法改正を唱える中曽根康弘氏が首相に就任。そして核兵器に反対する「反核」運動が最高潮に達した。
 この時期は戦後の高度成長を経て総中流社会が完成し、しかしまだバブルはやってきておらず比較的安定した時期だった。本書の企画は、女性の「激写」で時代の寵児(ちょうじ)だった写真家、篠山紀信をフィーチャーした雑誌「写楽」から生まれた。水玉をちりばめたポップな装丁は、著名なグラフィックデザイナー松永真。出版文化はまだキラキラと輝いていた。
 29枚の写真が添えられている。4人家族が裸で露天風呂を楽しんでいる印象的な作品もある。まだ若いころの団塊の世代と団塊ジュニアの一家だ。
 収められた日本の風景は、まだアジア的だった土着性と未来への期待というふたつの情緒に彩られているように見える。
 本書には解説文はない。それによって日本国憲法から政治性をはぎとり、そこに土着からポップへと脱皮しつつあった日本の情緒を加えることによって、本書は多くの人に受け入れられやすい「日本的感覚」となって定着していったのではないか。この本で憲法を初めて読んだという人も多かっただろう。
 いま憲法は再びきわめつけの政治的イシュー(論点)となろうとしている。その中で本書をふたたび手に取るという行為には、なにがしかの意味があると信じたい。
     ◇
 小学館・525円=累計109万部

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