田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 [著]渡邉格

2013年11月03日

■天然菌とマルクスに導かれ

 おいしいと評判の岡山のパン屋さんは“21世紀のマルクス”であるらしい。江戸時代の風情が残る人口8千人の山あいの町。著者はここで、地元の素材と天然菌にこだわったパン屋を営む。規模は小さくとも地域内で富を循環させて、自然や生態系を守りながら心豊かに暮らす——その生き方の背景には、効率や利潤第一の資本主義経済に対する強烈な違和感がある。
 天然酵母パンの奥深き風味にも似て、本書の内容も重層的だ。元フリーターの起業物語であると同時に、食の安全や地域経済再生の提言でもある。瞠目(どうもく)すべきはマルクスの『資本論』をパンづくりの観点から読み解いていること。自然栽培の作物に比べ、無理やり栄養を与えられたものは生命力に乏しく腐敗しやすい(つまり財政出動などの「肥料」で経済を太らせてもダメ)など、菌と発酵の話も滅法(めっぽう)おもしろく、考えさせられる。
 菌とマルクスに導かれ、著者は「腐る経済」なる理想にたどり着く。やがては土に還(かえ)る自然の摂理に反して増え続けるお金。「腐らない」お金が問題を引き起こしているからだ。ネーミングは目を引くが、少々腑(ふ)に落ちない部分も。だが前代未聞の菌が主役のビジネス書ゆえ、そこは大目に見よう。静かなる革命の書は、読むほどにライ麦パンの酸っぱい香りが漂う気がする。
    ◇
 講談社・1680円

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