著者に会いたい

辞書の仕事 増井元さん

2013年11月17日

増井元さんが手がけた辞典と著書=東京都千代田区 写真・松本敏之

■ことばに浸った辞典部の日々

 「辞典の編集部の仕事って、同じ会社のなかでも意外と知られていないんですよ」。岩波書店で30余年にわたり『広辞苑』や『岩波国語辞典』などにかかわった元名物編集者が、ことばや仕事にまつわるエピソードをエッセーにつづった。
 例えば、載せることばをどう選ぶか。編集者は世間で使われていることばをひたすら観察し、「おやっ」と思う語があれば書き留めておく。一例だが、「目が点になる」を増井さんが書き留めたのは1981年リリースのさだまさしのLPの解説で見つけて。それから17年後、よく使われているため、広辞苑第5版に載せることが決まった。〈辞典が社会のことばをリードするのではない、辞典は世間のことばの後からついてゆく〉
 ことばは絶えず変化するもの、それゆえことばには「はば」があり、こうでなければならないという正解はない、という寛容さが印象的だ。
 駆け出しのころ、ことばとじっくり向き合う機会を与えてくれた編者の先生のひとこと、「くんだり」の用例に「青森くんだりまで来た」と載せたら思わぬ指摘が読者から届いたこと、「食べる」より「食う」が好きな理由……。広くて楽しいことばの宇宙に誘われる。
 もともと辞書好きだったのかと思いきや、「異動を命じられたときは、行きたくなくて半年ぐらい前の部署にいて叱られたんです」と笑う。会社員は人事に左右される、そのめぐりあわせの妙も面白い。「辞典編集者になりますか」という一節では、地味で時間のかかる仕事への愛がにじむ。辞典編集部長、取締役などを経て2008年に退社。いまは趣味のチョウを追いかける日々という。
    ◇
 岩波新書・798円

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