再読 こんな時 こんな本

書店員に聞く 猫の素顔に迫る

2014年01月11日

 猫はいいなぁ。一番あったかい場所を見つけ、ごろごろ寝ていられて。正月休みが終わり、猫をうらやむご同輩もいるのでは? ところが、のんびりしているように見える猫にも、いろんな苦労や思惑があるようなんです。

■恵文社一乗寺店 堀部篤史さんに聞く
(1)猫語の教科書 [著]ポール・ギャリコ
(2)作家の猫 [編]コロナ・ブックス編集部
(3)ねこと国芳 [著]金子信久
(4)空飛び猫 [著]アーシュラ・K・ル=グウィン

■愛嬌振りまき手玉に取る
 猫がいかに思慮深いか、分かった気持ちにさせられるのが(1)『猫語の教科書』。猫がタイプした原稿という、驚きの設定でつづられた1冊だ。「人間の家をのっとる方法」にはじまり、「猫にとっての正しいマナー」「愛について」に至るまで、猫同士の会話を盗み聞きするようにして、愛すべき隣人(猫)とのスマートなつきあいかたを知ることができる。「これを読めば、猫がいかにして愛嬌(あいきょう)を振りまき、人間を手玉に取っているのかという空想が膨らみ、愛猫家は苦笑い必至」と堀部さんは言う。
 ここまで徹底的に猫の主観に寄り添えるのは、無類の愛猫家であり、猫を主人公にした小説を複数書いているギャリコだからこそ。文章にぴったり合った写真や、大島弓子による巻末の漫画「わたしにとっての“猫語の教科書”」も見逃せない。
 (2)『作家の猫』には、貴重な写真やスケッチがたくさん詰まっている。愛猫ノラの失踪に泣き暮らした内田百閒(ひゃっけん)。猫に気まぐれな女の性分を見いだした谷崎潤一郎。執筆時も猫にまとわりつかれていたという稲垣足穂(たるほ)。いずれの作家たちも、猫が登場する作品を残している。文学者はもちろん、画家や学者まで、猫好きたちの意外な側面にスポットを当てている。「三島由紀夫の書斎机には猫用の煮干しが入っていたなんて読んでしまうと、その作品観まで少し変わってしまいそう。われわれの知らない作家たちの一面を引き出してくれる猫に、感謝したくなるような1冊です」(堀部さん)
 (3)『ねこと国芳』は、しおりひもにも猫をあしらったぜいたくなつくり。江戸の浮世絵師、歌川国芳にとって、猫は最も身近なモチーフであり、習作に最適なモデルでもあった。破天荒な武者絵、艶(つや)っぽい美人画で知られ、想像力と奇想を駆使した絵師が、唯一間近に観察しながら描けた被写体である猫。本書はそんな猫を描いた作品から、別の角度で国芳を読み解く1冊だ。
 「美女の足元にまとわりつき、童たちと戯れ、地獄の鬼を前にして踏んばる猫の姿は、浮世絵をぐっと身近なものとして感じさせてくれるでしょう」と堀部さん。英訳を併記し、約15カ国で出版された。
 記者のお薦めは、背中に翼がはえている子猫たちの絵本(4)『空飛び猫』。行き交うトラックやおなかをすかせた犬たち。冒頭、人間界や自然界の厳しさが猫の視点で描かれる。やがて新天地の森に飛び立った4匹の子猫が、ある人間の兄妹と距離を縮めていく様子を温かな筆致で描く。『ゲド戦記』の作者、ル=グウィンによる子どもに語りかけるような文章を、村上春樹が丁寧に訳した。S・D・シンドラーの細密な絵もたっぷり楽しめる。シリーズ全4冊の第1弾。
    ◇
■〈聴くなら〉猫「各駅停車」
 猫にまつわる曲やアーティストは多いが、そのものずばりを名乗ったグループもいました。1971年、常富喜雄、内山修、田口清の3人で結成され、4年間で4枚のアルバムを残し解散した「猫」。吉田拓郎のバックバンドを務め、拓郎が提供した「雪」「地下鉄にのって」のヒットが記憶に残る。
 喜多條忠作詞の「各駅停車」は後期の代表曲。ボーカルをとる内山の、ほこりっぽいダミ声が男のやるせない気持ちにぴったりはまり、失恋ソングの隠れた名曲になっている。
 収録されている73年発表の3rdアルバム「猫・あなたへ」(ソニーミュージック、2310円)は、後に「風」に参加する大久保一久らが加入した5人体制。いかにも70年代のサウンドとハーモニーにも癒やされる。
 2004年に再結成され、現在は常富、内山に新井武士が加わり、地道なライブ活動を展開。6枚目のアルバムも制作中とか。60代の猫たち、元気です。(浩)

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