売れてる本

タルト・タタンの夢 [著]近藤史恵

2014年06月08日

■誰かを想う気持ちが隠し味

 下町にある小さなレストラン〈ビストロ・パ・マル〉。メニューは豚足とレンズ豆の煮込みやブイヤベース、さくさくのタルトの上にキャラメル状のりんごが乗ったタルト・タタンなど、気取らないフレンチ料理だ。シェフの三舟は無精髭(ぶしょうひげ)をはやし髪を後ろで結んだ無口な男だが、実は料理の腕だけでなく推理力も一級。店の客の周辺で起きる不可解な出来事の真相をあっという間に見抜いてしまう。そんな謎解きの数々を、店のギャルソンの視点から追った美味(おい)しいミステリー連作集。
 担当編集者の井垣真理さんによると「著者の近藤さんはもともと料理がお好きな方。“小さなビストロの話が読みたい”と提案したことがきっかけになりました。どの短編も、謎と料理と人間心理の機微が無理なく溶け合ったものになっています」。夜、店の傍(そば)の路地に立っていた女の子の目的は? 不倫カップルが店で食事をした際、女性側が気づいたこととは? 妻が家出したと嘆く男性客には、何か落ち度があったのか? これらの料理が絡む謎の多くは、誰かが誰かを想(おも)う気持ちが隠し味となっている。特に最終話で、一人のショコラティエが素数にこだわる理由にはぐっときた。三舟シェフのもてなしの心意気も心地よく、また、食材の説明や調理過程の丁寧な描写を読むと、作って食べてみたくなる。
 単行本の刊行は2007年。今年4月に文庫化されるとすぐに重版が決定し、以降順調に部数を伸ばしているという。読者層は7割が女性、20〜40代が中心。なかには80代の男性読者から「ずっと自分には縁がないと思っていたフレンチレストランに、行ってみたくなりました」という感想も。
 第2弾『ヴァン・ショーをあなたに』も現在単行本で発売中。今後、第3弾の刊行も予定されている。
    ◇
創元推理文庫、756円=4刷7万部


関連記事

ページトップへ戻る